第114話 孤児院への訪問者
「ま、待てぇ…ぜぇ…ぜぇ…!」
「ここまで来てみろー!」
孤児院の子供たちが俺を煽りながら一斉に逃げていく。
現在は鬼ごっこ中。鬼は俺。子供たちは駆け回っている。
息を荒げながら追いかけるが、一向に追いつかない。本当にすばしっこい。
子供たちは体力が無限だったことを忘れていた。大きくなるにつれて体力に限界ができる。十七の俺も子供の体力には敵わない。
というか、酷くない? 俺が鬼の時は一致団結して逃げ、タッチしたら集中的に俺を狙うんだぞ。もう何回鬼になったことか。
膝に手をついて体力を回復させる。
「シラン様ー! 頑張ってください!」
「ほらほらシラン! だらしないわよ!」
「おにいた~ん!」
「「「頑張れ~!」」」
ジャスミンとリリアーネ、レナちゃんを始めとする女の子たちが応援してくれる。ジャスミンとリリアーネは孤児院の女の子たちに気に入られたようだ。膝に乗せたり、抱っこしたり、囲まれている。
俺は彼女たちに手を振って、再び走り出す。
「ま、待てぇ~!」
「逃げろ逃げろ! 特に女子! 兄ちゃんに喰われるぞ!」
「「「きゃぁ~!」」」
「喰わねぇよ!」
鬼ごっこに参加していた女子たちが楽しそうに悲鳴を上げて逃げ回る。
リリアーネが
「シラン様…まさか…」
「シラン最低」
「ちょっとリリアーネさん!? ジャスミンさん!? 少しは俺を信用してよ!」
二人がスゥっと顔を逸らした。
くっ! 俺はそこまで信用がないのか。心が傷ついた。
「隙あり! 必殺カンチョー!」
「うおぉっ!?」
ちびっ子の一人が俺の背後に近づき、いきなりカンチョーをしてきた。俺のお尻にちびっ子の指が突き刺さる。
捕まえようとしたが、笑い声を上げながら逃げられた。
「おい! 鬼の俺に触ったから鬼だぞ!」
「兄ちゃんがオレに触ったんじゃなくて、オレが兄ちゃんに触ったんだ。無効だ無効! 鬼が触らないと鬼になりませ~ん!」
「くっ!」
「あっ! 俺、兄ちゃんの尻に触っちまった。汚ねっ!」
俺にカンチョーをしてきたちびっ子が、手を他の子で拭おうとし始め、そこから別の追いかけっこが始まった。
これが子供たちだとわかっているのだが、若干心が傷つく。酷い。
鬼ごっこを忘れた子供たちを眺めながら、荒い息を整え、汗を拭う。良い運動をした。
そこに、ランタナが出現する。普段とは違う。冷たい剣呑な雰囲気を纏って、俺を背後に隠し、孤児院の門の方向を睨んでいる。
ジャスミンとリリアーネにも、守るように近衛騎士たちが立っている。
突如冷たい威圧を放出し始めた近衛騎士たちに、子供たちが怯え始める。
「ランタナ?」
「誰かが孤児院にやってきました。一応、逃げる準備を」
ほうほう。訪問者か。だから警戒しているのか。お仕事お疲れ様です。
少しすると、近衛騎士たちに囲まれた少女が孤児院の敷地内に入ってきた。ビクビク怯えている栗色の髪をポニーテールにした少女だ。
「何だ。ソノラか。警戒を解いていいぞ」
「しかし…」
「大丈夫。俺の知り合いだ」
渋々ランタナは騎士たちに合図をして警戒を解く。でも、完全には解いていない。
「やあソノラ!」
「殿下」
ビクビクしていたソノラが、明るい笑顔を浮かべて、恐る恐る駆け寄ってくる。少し顔が強張っているのは仕方がない。
「あの~これは何があったんですか? こんなに騎士様が沢山…この子たちが何かしました?」
駆け寄ってきたちびっ子たちの頭を撫でながら、心配そうに問いかけてきた。
「違うわよ。シランのせいよ」
「ソノラさん、ごきげんよう」
「ジャスミン様! リリアーネ様! こんにちは! 殿下のせいってどういうことですか?」
女の子に囲まれながらやってきたジャスミンとリリアーネ。ソノラと二人は仲が良い。
子供たちと戯れながら、何かに気づき、まさかっと目を大きく見開く。
「まさか…殿下が何か犯罪を!? 孤児院の女の子を襲ったりだとか!? お、襲うならこの子たちじゃなくて私を! 私なら何をされても構いませんから!」
「襲わねぇよ! なんで皆そういう発想になるんだよ!」
「だって殿下ですし」
ソノラの言葉に全員がうんうんと頷く。レナちゃんまで頷いていた。レナちゃんは周りの真似をしたと思いたい。
「それで? 殿下は何をしたんですか?」
「何故俺が何かした前提なんだ? 俺の身分を考えろ。本当はこれが普通なんだ」
「殿下の身分………………………………………あっ! 王子様でしたね」
何その長い間は! そんなに悩まないと俺の身分は出てこないのか!? ソノラは俺のことを殿下って呼んでるよな!? みんな酷くない? 俺、王子だよ…。
「ですが、いつも騎士様を連れていませんよね?」
「どこかの第三王子様は私たち近衛騎士団から逃げていますからね」
「うぐっ!?」
ランタナからのジト目。結構心に響く。
「殿下らしいですねー」
ソノラはケラケラと笑う。
それって褒めてる? 褒めてないよね、絶対。
「ソノラは旅行のお土産はいらないみたいだな」
「お土産!? ください!」
「えぇー! どうしよっかなぁ~」
「くださいよ~! 殿下ぁ~!」
涙目になりながらソノラが抱きついてくる。むぎゅっと抱きつき、上目遣い。
周囲のちびっ子たちが、おぉ、と小さく歓声を上げた。サムズアップをしている子もいる。
ソノラは俺の身体に抱き着いたまま、お土産くださいよぉ~、と揺さぶってくる。
気分が悪くなるから止めてくれぇ~!
それを見ていたジャスミンはため息をつき、リリアーネはニコニコと微笑んでいた。
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