第69話 旅行に出発

 

 俺の屋敷に大勢の人が集まっている。鎧を着た騎士たちだ。一糸乱れぬ隊列を組み、隊長が指示を出している。規律の取れた動きでテキパキと準備を進めていく。

 流石騎士の中の騎士。王国最強の近衛騎士たちだ。感心する。

 近衛騎士の隊列の中には、騎士服を着たジャスミンも混ざっている。

 真面目な顔をして、美しく凛とした姿にちょっと見惚れてしまう。


「シラン殿下」


 細かな指示を出していた騎士団の隊長が俺に近づいて、ビシッと敬礼をしてくる。

 厳格で真面目そうな若い女性だ。しかし、冷たい印象はない。橙色の瞳から優しい温かさが感じられる。姉御と慕われていそうだ。

 腰には細剣レイピアを帯びている。


「近衛騎士団第十部隊を率いております部隊長のランタナであります。本日から、殿下をローザの街まで護衛させていただきます」

「ああ、頼んだ」

「………というか、シラン殿下。私たちに仕事をさせてください。我ら第十部隊は殿下の護衛の部隊ですよ?」

「あはは……善処します」


 ランタナの温かみのあるジト目が突き刺さる。

 いつもいつも俺は護衛の近衛騎士たちを撒いて遊びに出かけるから、近衛騎士たちの仕事を奪ってしまっている。俺を追いかけるのが仕事、みたいになっている。最近は若干諦めモードを感じる。

 父上を護衛するのが第一部隊で、レペンス近衛騎士団長が率いる部隊だ。一番数が多く、精鋭のみが所属できる部隊だ。

 俺の護衛は第十部隊。ジャスミンが所属する部隊でもある。

 まあ、俺の護衛する部隊だからジャスミンが配属されたというほうが正確だ。ジャスミンなら俺をどうにかしてくれると思ったらしいのだが、改善されたのかな?


「ローザの街に着くまで三日かかる予定です。状況に応じて街に泊まりながら目指します」


 俺たちのみで行った場合は数時間で移動することができる。転移すれば一瞬だ。

 でも、今回は父上にも言って大々的にゆっくり行くことになっている。

 理由は、お金を消費して経済を活性化させるためだ。

 こういう所で使わないと経済が回らない。お金を貯めつつもたくさん消費する。これは貴族や王族の義務だ。

 おかげで金遣いが荒いと国民に言われることもあるが。

 生真面目なランタナの説明は続く。


「隊列を組みながら移動しますが、殿下の馬車は中央です。周りを私たちが護衛いたします。もし万が一対応できないことが起きたら、我ら近衛騎士団で食い止めます。その隙に殿下のお得意の隠密スキルで逃げてください」

「わかった」


 あれっ? 普通に返事をしてしまったけど、今のは褒められてる? 皮肉が混じっていた気がするんですど。俺の気のせいか?

 万が一のことはたぶん起きないと思う。近衛騎士たちがやられたとしても、俺の使い魔が絶対にどうにかする。国を滅ぼせる使い魔ばかりだから、それ以上のことが無い限りは大丈夫だ。

 テキパキと動いていた近衛騎士の一人が駆け足で近寄ってきた、ビシッと敬礼した。


「殿下! 隊長! 準備が整いました!」

「わかった。ありがとう」

「お疲れ様です。では、殿下」

「ああ。出発するか」


 俺たちは馬車へと移動する。

 俺の馬車は王家の紋章がついた馬車だ。見た目はそれほど派手ではない。俺が嫌がったから大人しめのデザインにしてある。

 他の馬車に俺の屋敷で働く使い魔たちが乗り始めた。一応、俺の使い魔だということは伏せられている。だから、普通に馬車に乗り込んで移動するのだ。

 全員連れて行くわけにはいかないので、半分ほど屋敷に残す。向こうに着いたら転移させればいいし。

 待機していたリリアーネを誘って、俺たちは乗る馬車に近づく。


「はぁ…いつ見てもかっこいいですよね…」


 ランタナの口から感嘆の声が漏れる。

 橙色の瞳がうっとりと見つめている先には、二頭の幻獣が凛々しく立っていた。

 片方は純白の一角獣ユニコーン、もう片方は漆黒の二角獣バイコーン

 俺の使い魔のピュアとインピュアだ。

 二頭の幻獣は一際目立って、威厳と清純さを感じる。


『かっこいいでしょ! どやぁ~!』

『ふんっ! 当然よ当然!』


 ピュアとインピュアが得意げに鼻を鳴らした。

 ピュアは積極的に、インピュアは恥ずかしそうに顔をスリスリと擦り付けてくるのがとても可愛い。


「かっこよくて可愛いお二人さん。今日もお願い」

『ラジャー! お願いされるのだー!』

『ほ、褒められても嬉しくなんかないんだからね!』


 インピュアさんは今日もツンデレだ。


『私はツンデレじゃない!』


 おっと。心を読まれてしまった。何故いつも考えていることがバレるのだろう?

 怒って拗ねないうちに退散しますか。

 最後にピュアとインピュアを撫でて、馬車に乗り込む。


「お先にどうぞ、リリアーネ」

「シラン様、ありがとうございます」


 こういう時はレディファーストだ。

 リリアーネがニッコリと微笑んでくれる。リリアーネが乗り込んでから俺も乗り込んだ。その後から使い魔のソラやハイドも乗り込む。

 ジャスミンは近衛騎士の隊列に並ぶそうだ。

 俺の婚約者だからこっちに乗っても誰も文句を言わないだろうに。

 俺たち全員が乗り込んだことを確認して、近衛騎士団のランタナ部隊長が号令をかける。


「出発します!」


 馬車の隊列がローザの街に向けてゆっくりと動き出した。


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