第57話 舅と姑
正式に婚約者となったジャスミンとリリアーネ。
恥ずかしそうにもじもじしながら、チラチラと視線を向けてくる。
俺がタイミングよく視線を合わせると、カァっと真っ赤になって視線を逸らし、またチラッと見てきて、また顔を逸らす。
反応がとても可愛い。どうしよう。二人が可愛すぎるんですけど!
『さっさと襲えばいいんじゃなーい? ご主人様の性欲はすごいし』
使い魔の
俺は即座に念話を返した。
『お前らが勝手に媚薬を盛ったり、体力を回復させたり、
『だってたくさん愛されたいんだもーん! ハーレムを維持するには全員に愛を注がないといけないのです! みんなもそう思うでしょ?』
俺の体内に潜んでいる使い魔たちが肯定の意思を伝えてくる。
うぐっ! 別に俺は嫌なわけじゃないからね? みんなを抱けて幸せですらね?
皆さんをたっぷりを愛しますから、これからもよろしくお願いします。
『よーしっ! 今夜はジャスミンとリリアーネを連れ込もう! 初めての子って可愛いよね! サポートしてあげなくちゃ!』
『やめい! 俺たちのことは放っておけ!』
えぇー、とぶつくさ文句の声が上がるが、強制的に念話を切る。
はぁ。疲れた。緋彩は本当にしそうで怖い。また縛っておこうかな。
「シラン? どこ行くの?」
「公爵からのお呼び出し。ちょっと飲み物も貰ってくる」
立ち上がって、席を離れる前にちょっと悪戯心で二人の頬にキスをしてみた。
ポフンと真っ赤になる二人。舌打ちが響き渡るダンスホール。貴族たちに軽くドヤ顔をし、二人の頬を軽く撫でてから席を離れた。
視線が集まる。全て憎々しげで殺気を孕んだ視線。
嫌われているなぁ、俺。
えーっと、ジャスミンのお母様はどこにいらっしゃるかなぁ?
おっ! 見つけた! 会場の端っこの席に座っている。げっ! やっぱりヴェリタス公爵もいる。嫌だなぁ。行きたくないなぁ。
でも、そういう時に限って俺に視線を向けるのがグロリア公爵なんだよなぁ。
おっとりと微笑んでいる公爵と視線が合ったので、仕方なく向かいます。あの笑みには逆らえない無言の圧力を感じるんだよあなぁ。
「この席に座りますよっと!」
「ええ、どうぞ」
グロリア公爵がおっとりと微笑みながら優雅にティーカップを傾け、ヴェリタス公爵は俺をキッと睨みつけている。
周りから様子を伺う視線を感じ、貴族たちが盗み聞きをしている。
「で? グロリア公。お話しは何ですか?」
「あら? お
「………流石にそれは」
「……私をお
おぉ…怖い。ヴェリタス公爵に殺されそうだ。冗談で言わなくてよかった。
んっ? グロリア公爵が意味ありげに微笑み、頭を掻くフリをして、人差し指で軽く頭をツンツンと叩いている。
『これでいいですか?』
俺は公爵二人に念話を繋げた。グロリア公爵が視線だけで頷いた。
『ええ。ありがとうございます』
俺たちは口で普通の会話をしながら念話で重要なことをしゃべるという器用な芸当を行う。
『まず、ジャスミンのことをお願いしますね、殿下。あの子には貴方しかダメなので』
『わかっていますよ』
『リリアーネのことも頼みます、殿下』
『おや。親バカのヴェリタス公が珍しい。明日は槍でも降るのでしょうか? 私、心配です』
『私だってリリアーネの幸せを願っています!』
揶揄い口調のグロリア公爵にヴェリタス公爵が反論する。
ヴェリタス公爵も親バカだが、グロリア公爵も親バカだ。おっとりと微笑んでいるが、瞳で俺に警告してくる。娘を泣かせたら覚悟しておけ、と。
背筋がゾクッとする。
『俺を脅すために呼び出したんですか?』
『ええ』
『まさかの肯定!?』
『9割冗談です。ジャスミンには殿下の秘密を教えましたか?』
何気ない普段の話をしながら、念話では突然突っ込んでくる。
この人の考えが読めない! ジャスミンのお母さん苦手! 暗部のことを勘付いているし!
『ジャスミン嬢は知らないのですか? ウチのリリアーネは殿下の秘密を知っていますよ? 信用されていないのでは?』
『何を言いますかヴェリタス公。ジャスミンを心配させまいとする殿下の愛情を感じるではありませんか。ウチのジャスミンのほうが愛されています』
『私の可愛いリリアーネのほうが愛されているに決まっている!』
『ジャスミンです!』
『リリアーネです!』
すまし顔なのに、頭の中では猛烈に娘の自慢をしている二人。
お互いにマウントを取ろうと言い争っている。
本当に二人は親バカだ。
その言い争いは当然娘の婚約者になった俺に向けられる。
『『殿下!』』
『どっちも可愛いと思っていますよ』
婚約者の両親がちょっとウザイと感じるのは俺だけだろうか?
頭の中では言い争っているけれど、現実の二人はにこやかに会話している。
あっ。今一瞬視線がぶつかり合って火花が散った。怖い怖い。
『ですが、母親の立場から言わせてもらうと、ジャスミンには出来るだけ暗部のことを教えて欲しくないですね』
『貴族としては裏事のことを教えなければならなかったのですが、如何せん、リリアーネが可愛すぎて……』
『わかります。血生臭いことを知ってほしくないのですが…近衛騎士団になってしまうなんて…』
『なんか申し訳ございません…』
思わず謝ってしまう。俺が無能を演じなければジャスミンは近衛騎士団に所属することにはならなかったのかもしれない。
でも、ジャスミンは正義感が強いから、結局は入団しそうだけど。
『おや。殿下が暗部のことを認めましたね』
『あっ! そ、それは……』
グロリア公爵の瞳に悪戯っぽい光が輝いている。
しまった。ハメられた。
『まあ、普通に気づいていましたけどね』
『体格や歩き方で全てわかりますよ、殿下。気をつけたほうがいい』
普通気づかねぇーよ! これだから超武闘派の貴族は嫌なんだ!
不貞腐れた声で二人に返答する。
『何のことですかー? 俺は何も知りませんよー』
『おやおや。可愛らしい義理の息子が拗ねてしまいましたか』
『くっくっく。そういうことにしておきましょう』
『あぁもう! 取り敢えず、ジャスミンとリリアーネの二人は任せてください。俺が全力で守ります』
『ジャスミンをよろしくお願いします。あの子を泣かせたら、殿下の想像以上の地獄を経験させてあげます』
『リリアーネを泣かせたら、何度も殺します! 幸い、殿下は死なないようなので』
怖っ!? 婚約者の親が怖いんだけど!
『あの~? 二人が嬉し涙を流したときはどうなりますでしょうか?』
『『殺します!』』
『止めて! お願いだから止めて!』
即座にドスの利いた声で脅された。
滅茶苦茶怖い! 思わず背筋が凍り付いたぞ!
頭の中にクスクスと二人の公爵の笑い声が響き渡る。
二人なりの冗談だったらしい。でも、明らかに本気の声色だった。本当に冗談だよね?
念話で話すのを止め、グロリア公爵が立ち上がる。
「では、そろそろ失礼しますね。何かあれば遠慮なくご連絡を」
娘を頼む、と言いたかっただけらしい。親バカだなぁ。
俺の右肩をポンと叩かれたが、誰にも見えないくらいの早業で右肩が握りつぶされた。
「うぎゃっ!?」
うふっ、と微笑んだ公爵が人混みの中に消えていく。
「殿下、リリアーネに連絡を絶やすなと伝言をお願いします」
「ぐぎゃっ!?」
ヴェリタス公爵に今度は左肩を握りつぶされた。公爵は颯爽と立ち去る。
残された俺は、テーブルに突っ伏した。
うぅ~! 両肩が痛いよぉ~! 武闘派の二人の握力は半端ないよ~!
将来の舅と姑に脅され、意地悪された俺は、痛みが引くまでの間、ずっと肩を押さえて悶絶しているのだった。
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