第35話 情報収集

 

 八百屋の前で正座してジャスミンとリリアーネ嬢にお説教された俺。

 解放されないと思っていたら、レナちゃんが二人の袖をクイクイっと引っ張って、「おねえたんも一緒に食べよ?」という上目遣いで即座に撃沈した。

 今は、八百屋の前にベンチを俺が異空間から取り出し、孤児院のちびっ子たちと一緒にフルーツを食べている。

 もちろん俺のおごりだ。

 俺は膝の上にレナちゃんを乗せながら、皆にあ~んしたりされたりしてワイワイ騒いでいる。

 美味しそうに食べるちびっ子たちを見て、主婦や主夫の皆様が八百屋にフルーツを買いに来ている。

 予期せぬ集客効果で八百屋のおばちゃんもウハウハだ。

 俺は隣に座っているちびっ子の一人に声をかける。


「最近どうだ?」

「う~ん? 孤児院はいつも通りだぜ。院長先生もオレたちも楽しくやってる」

「街中はどうだ?」

「特に変な噂は聞かないなぁ。兄ちゃんが女を増やした噂くらいか?」


 うぐっ! 俺は増やしていないんだけどなぁ。

 勝手に噂を流す人がいて外堀を埋めようとしているんだ。


「物価もさほど変わっていないし、なんかあったかなぁ?」


 う~ん、と少年が考え始める。

 すると、後ろから八百屋のおばちゃんが声をかけてきた。


「ローザの街でちょっとごたごたがあってるらしいよ!」

「ローザの街?」


 ローザの街は王族や貴族が良く訪れる街だ。

 所謂別荘を構える場所だ。避暑地とかで良く訪れる。

 一年中気候が穏やかで過ごしやすい地方だ。


「ローザの街の名産であるハニーローザが少なくてね。もともとハニーローザは傷みやすいんだけど、どうやら荷馬車が魔物に襲われているらしいのさ。王都に来るまでに全部パァになってるって、噂を聞いたよ」

「ふむ。魔物の活性化か? 大量発生か、それとも強い魔物が現れて逃げているのか…」

「さあ? あたしゃ知らないね! 詳しく聞きたいなら冒険者ギルドへ行きな!」

「はいよー! 情報サンキュー! お礼に桃の値段の三分の一、いや、三分の二を出すよ。もちろん全部。だから、突然のセールスとして一個900イェンのところを300イェンで売らない? こんなに美味しいのに売れないのはもったいない」

「流石話の分かる殿下だ! さあさあ、よってらっしゃい! ここにいる王子殿下のおかげで桃の安売りを始めるよー!」


 恰幅のいい八百屋のおばちゃんが大声を上げて宣伝を始める。

 それと同時にうわぁーっとお客が押し寄せる。

 俺は押し寄せる客を眺めながら考えをまとめる。

 ふむふむ。冒険者ギルドへ行きますか。

 まあ、今はデート中だから終わってからだけど。


「おっ! 冒険者で思い出した! 兄ちゃん、行儀の悪い冒険者が来てるってよ! 強引に連れ去られそうになったとか、突然言いがかりをつけられたって言う話が聞こえてる。暴力も振るっているとか」

「そうなのか。ありがとな。俺の冒険者の知り合いに頼んでみる」

「よろしくなー!」


 俺は少年の頭をグシグシと撫でる。

 嫌そうな顔を演じながらも、少年は拒絶することはなかった。口元も僅かに緩んでいる。

 むぅ、と膝の上のレナちゃんも不満そうにしていたので、もちろんレナちゃんの頭もナデナデする。

 フルーツを食べていたちびっ子たちが俺の周囲に集まってきた。


「兄ちゃん兄ちゃん! いつものやって!」

「いつもの? ここじゃ危ないだろう?」

「えぇー! 兄ちゃんのケチ! ………兄ちゃんのあることないことをあの姉ちゃん二人に言ってやるぞ?」


 ボソッと呟いて俺を脅迫してくるちびっ子。

 おうおう。いい度胸じゃないか! 王子であるこの俺を脅すとは!


「よし! ちびっこ諸君! いつものをやってあげよう!」

「「「いえーい!」」」


 はい。俺は脅しに屈しました。

 だってジャスミンとリリアーネ嬢にあることないこと吹き込まれたら、絶対に大変なことになるから。

 俺はちびっ子たちを魔法で宙に浮かせる。そして、縦横無尽に動かし始めた。

 きゃー、と楽しそうに空を飛ぶちびっ子たち。

 孤児院に行ったときにやってあげたら、みんな気に入っちゃったみたいで、俺と出会ったらいつもお願いしてくるんだよなぁ。


「あっ、レナちゃんパンツ見えてる! うわっ! スカートだった! 他の女の子たちも!」

「おにいたんだったらいいよ?」

「私も子供だから問題なーい! それに、お兄ちゃんはパンツ好きなんでしょ?」

「誰だそんな嘘を言った奴は!」

「ソノラお姉ちゃん! 男の人は皆パンツ好き、お兄ちゃんも絶対に好きだって、ソノラお姉ちゃんが鏡の前で夜に下着姿でポーズ取りながら呟いてた」

「ソノラ! 後で覚えてろ! ちびっ子たちの教育に悪いぞ!」


 俺はここにはいないソノラに向かって叫ぶ。

 後でお仕置きしておこう。

 俺は少女たちのスカートの中が見えないように魔法で隠しながら、ちびっ子たちを空中で泳がせていた。


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