本題・代理謝罪

 小西、佐鳥、村崎の三人で作戦を練って無事に謝罪相手のお宅に入るというところまで辿り着いた。

 リビングに案内され、大丈夫だと村崎が言って断ったものの御茶と菓子を出してくれた。村崎は長居する気はないが、これではそうせざるを得ない状況である。

 村崎も謝罪相手も話ができるくらいの状況になって本題の代理謝罪を切り出した。

「高校の時に関係を悪化させてしまい、それを謝りたいということで今回依頼されて代理謝罪しに参りました。」

「あら、久留美ちゃんが。私はそこまで尾を引いてなかったのだけど、気にしてたのかしらね。わざわざそういうために来てくれてありがとうね。」

 謝罪に来たものの謝罪相手本人はそこまで大きく抱えていなかったらしい。意外と片方は大事だと思っているけれどももう片方はその事をそこまで大事とは思っていないみたいなことになっているのだろう。

「いえいえ、逆にそう思われていたんだということが分かることで気持ちが軽くなるってこともあるので。」

 これは村崎本人が思っていることでここまで先頭に立って代理謝罪をして来てはないが、裏方として関わっていたり過去の事例を小西や佐鳥から聞いたりして来た中で相手に自分の思っていたような思いがなかったと分かって安心して肩の荷が降りるみたいなことがあると感じていたのである。

「一つ無理を言って良いかしら。」

「はい、叶えられるかはそのものによりますが。」

「久留美ちゃんをここに呼んでほしいの。高校を卒業からずっと思ってたとしても五十年近く、そんな風に思わせていた私が申し訳ない気がして直接本人と話して私も久留美ちゃんも思っていることを言った方が良いでしょ。」

「少し待ってください。本人に話をしてくれるように先輩に話してみます。」

 村崎は席を立ち、端の方に行って小西に電話を掛けた。こういうことは佐鳥よりも小西に話を通した方が端的に事が運ぶのである。

「そうか、すぐに連絡を取ってそう伝えて都合が良ければ直接話が出来る機会があるからどうかと言ってみる。その結果は多分五分くらいで伝えられると思う。」

 小西からの電話のことを軽く謝罪相手に話をして暫くしたら話が直接出来るかの結果が分かるということを伝えた。

 村崎本人としては二人がゆっくりと話ができて欲しいなと思っていた。これは㈱代理謝罪の人としてではなく、一人の人間としてである。

 折り返しで掛かってきた電話ですぐに依頼人が向かってくるということが判明した。

 二十分程度して依頼人が謝罪相手の家に現れた。最初は少しだけ間が悪く見えたが少しずつ空気がホグれていった。

 村崎は二人だけの席にするためにここで謝罪相手の家を後にして帰った。二人だけだからこそできる話というものがあり部外者の村崎はいない方が良いと小西との話でそういう結論を出したのである。

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