警察署

 警察署は住宅街を抜け、商店街を進んだ先にあった。

 署の前には門番宜しく腕を組んだ警官が立っていた。

 横を通り過ぎようとすると、警官から鋭い視線を向けられたので、何もやましいことはないのに思わず体を強張らせてしまう。

「こんにちは」

 その挨拶は、ひかりに向けられたものであった。

「こんにちは」

 ひかりも愛想良く挨拶を返す。

 着物姿のひかりは、町中でもかなり目立つ存在である。そんなひかりが警察署を訪れたのだから、警官の注意が向くのも当然である。

「何かご用ですか?」

「ええっと……」

 警官に尋ねられ、ひかりは口篭っていた。

 実際のところ、僕の単なる付き添いで来たのだから、ひかりに用があるわけではない。

 ひかりは返答に困って、しどろもどろになってしまっていた。そんな最中、ひかりからアイコンタクトが送られる。

──ここは任せて先に行け。

 僕は素直にひかりの言うことに従うことにした。

 確かに、生者であるひかりが用もなく警察署内を──ましてや、警察署の深部にある遺体霊安室をうろつくというのは無理がある。

 幽霊である僕が一人で探索した方が、行動はしやすい。


「行ってくるよ。君は何処かで休んでいてくれよ。上手くいったら、後で合流するから」

 警官と対面しているひかりからの返事はない。

──代わりに、ひかりは深々と頷いた。


 僕はひかりとここで別れて、正面入り口から堂々と警察署へと入っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る