蘇生の可能性

 千枝と再会を果たしたお泥沼広場公園を後にして、僕とひかりは住宅街の通りを歩いていた。

 千枝と上手くコミュニケーションを取ることができなかったため、重苦しい空気が流れていた。ひかりなど、相当気に病んでいるようで先程から黙り込んでしまっている。

──が、そう重苦しく考えていたのは、どうやら僕だけのようであった。

 不意にひかりがポンッと手を叩くと、明るく笑顔を浮かべた。

「良かったわね! 生き返ることが出来るかもしれないんだから!」

「えっ!?」

 唐突なひかりの言葉に、僕は驚いて声を上げてしまった。

──と言うのも、先日僕はひかりにハッキリと「生き返ることはできない」と言われたばかりである。どういう心情の変化なのだろう。

 ひかりは自身の考えを、百八十度改めたようである。


「生き返れるって、どうしてさ!?」

 僕が尋ね返すと、ひかりはキョトンとした表情になる。

「貴方、千枝さんの話、聞いていなかったの?」

「千枝の話?」

 鸚鵡おうむ返しをする僕に、ひかりはハァと呆れたように溜息を吐いた。

「千枝さんが言ってたでしょう? 『遺体は綺麗なままで保管されている』って。肉体が残っているのなら、それに戻れば復活出来るってことじゃない」

「え……? でも、前は生き返れないって言ってたじゃないか」

「それは、報道では『遺体はバラバラ』って言っていたからよ。アナウンサーが 『遺体は見るも無残な姿で、身元も判別できない』って……。そんな状態で、自分の肉体に魂を戻してみなさいよ! スライム人間? とても、生き返ることなんてできないでしょうが!」

 実際に想像してみると、妙にグロテスクだ。

 例え、それで生き返ったとして、今までの生活には戻ることはできないだろう。

「バラバラの肉体と綺麗な肉体とでは、大きく違うわよ。実際にその肉体を見た千枝ちゃんが、貴方の綺麗な状態で残っていることを確認している」

「なら、その肉体に戻れば……」

「そう。生き返られる可能性があるってことね」

 だが、釘を差すかのようにひかりは立てた指を僕の顔を近付けてきた。

「あくまでも可能性よ。死後数日は経過しているのだから心肺機能も停止しているし、本当に生き返られるとは保障できないわ」

「それでも……可能性があるなら、試してみたいな……」

 このまま幽霊として生活するのも悪くはないが、もう少し生者として人生を謳歌したいものである。

「ええ、それが良いと思うわ。だと思って、私も千枝ちゃんにあんなことを言ったわけだし……」

──必ず生きて、彼は貴方の目の前に現れるでしょう。

 ひかりが千枝に言い放ったその言葉が、単なる気休めでなく現実になろうとしていた。


「貴方の遺体が保管されているのは、警察署って言っていたわね。そこに行ってみましょうよ」

 ひかりに提案され、僕は大きく頷いた。

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