第四夜・悲鳴を上げる目なしの烏
予見された事件
翌日——とあるニュースが世間を賑わせた。
一人の有名女性アナウンサーが夜道で何者かに襲われ、病院に緊急搬送された。
犯人は現場を立ち去る際に女性の財布から現金を抜き取って行ったらしい。警察では、金銭目当ての物取りの犯行として捜査を続けていた。
その被害者とは──つまり、木下教団代表・嵐山木下が出演していた番組の女性インタビュアーであった。
嵐山が番組内で今回の事件を予言するような発言をしていたことから、視聴者の反響もかなりあったようだ。ネット界隈の掲示板でも、この件が大きく沙汰されていた。
メディアでも特別番組が敷かれ、嵐山の露出も急激に増えた。
『犯人には借金があって、相当お金に困っていたようだね』
有識者宜しく嵐山が得意気に解説をする。
『臆病な犯人だが、大金が欲しかったので勇気を振り絞って犯行に及んだ。……ところが、蓋を開けてみたら脅した相手が大して現金を持っていない。だから、犯人は激怒してその怒りを被害者にぶつけたんだよ』
『なるほど。そのビジョンが他番組で見えたわけですね』
司会進行役の芸能人が、嵐山の解説に相槌を打つ。
嵐山は頷いた。
『ええ。俺は彼女に金を持ち合わせておくようにアドバイスしたんだがね。どうやら忠告に従わず、貯金もおろしていなかったようだ。被害に合うのは自業自得だな』
『なるほど。お金さえあれば、或いは……といったところだったんでしょうか?』
『ああ。それなら、加害者も金だけ奪って逃げただろうから、危害を加えることもなかったかもしれない』
被害者に対して散々な言い様ではあるが、司会者も被害者を擁護する気はないらしく番組を進めていった。
僕の目には、嵐山の姿に木下が重なって見えた。
悪目立ちをする彼に、僕は呆れたものだ。幽霊という立場を利用して嵐山の体を乗っ取り好き放題に発言している木下を、このまま放っておいて良いものだろうか──。
僕はテレビ画面を見ながらひかりに尋ねた。
「彼に会ってみたいんだけれど、どこに行ったら会えるかなぁ?」
ひかりはそんな僕の疑問に顔を顰めた。
「どうにも邪悪な人に感じられるから、余り会うことはオススメしないけど……」
真の霊能力者である鬼門流ひかりからしたら、インチキ教団を纏める嵐山や木下を快く思っていないようだ。
「それでも、放っておく気にはなれないな」
「そう……。なら、あちこちに木下教団の事務所があるから、そこを回ってみたら良いかもね。もしかしたらアポくらいは取ってもらえるかもしれないわ」
「そうか。わかったよ」
ひかりに動いてくれる気はないらしい。
——それはまぁ、そうかもしれない。バス事故の当事者である僕ならいざ知らず、ひかりは木下とは無関係で面識もないのである。わざわざ訪ねに行く理由はない。
乗り気でないひかりを引っ張りまわす気にもなれず、僕はここで彼女と別れることにした。「私はしばらくここに居るから、またお困りになったら戻っていらっしゃいね」
そうニコニコと笑顔で手を振るひかりを置いて、僕は木下と再会すべく旅館を後にした。
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