唯一の生存者
山田が入院している病室を特定することは
山田が入院している、ここ『
霊体となった僕は、普通の人からは認識されない。──透明人間になったようなものである。
だから、関係者以外には立ち入れないような受付の中や事務所の裏側にまで入り込むことができ、個人情報が記載されている資料にも
山田の所在が分かったところで、僕は病室を目指して長い廊下を歩いた。
ロビーにはカメラやマイクなどの機材を持ったマスコミ関係者の姿があった。皆、山田に取材ができないものかとあれやこれやと手を尽くしていた。
そんな彼らを
——まぁ、いくら警備員が見張りに立っていようとも、霊体である僕には関係ない。
堂々と警備員の目の前を横切って、山田が入院している病室の中へと入った。
病室の中は薄暗かった。
カーテンが閉め切られ、電気もつけられてはいない。
山田はベッドの上に座っていた。——頭に布団を被り、湯気の立つカップに入ったコーヒーを
彼の視線は真っ直ぐに、テレビのモニターへと向けられていた。
テレビにはお昼のワイドショー番組が流れていた。スタジオで有識者を前に、アナウンサーがフリップを使用しながらバス事故の解説をしていた。
『運転操作を誤って、事故を引き起こしたということですが……』
『責任逃れのつもりなのでしょうね。さすがに、こんな
アナウンサーの説明を
当人である山田は、無言のままテレビ画面を見詰めたままだ。
『おかしなことを言って、罪から逃れるつもりかもしれませんけど……。多くの犠牲者を出した罪が消える訳じゃないんですから、きちんと償ってもらいたいものですね』
拳を握りながら力説する司会者の言葉に熱が入る。すると、スタジオの客席からパラパラとまばらな拍手が起こり始める。
段々とその拍手は大きくなり、やがて観客からの山田に対する批判の声も大きくなっていった。
『ふざけるんじゃねぇぞ!』
『罪を償えっ!』
怒号が飛び交い、スタジオは騒然となった。
山田は唇をきつく噛み、体を震わせた。
「本当なんだよ……」
ポツリと山田が呟く。——その言葉に力はない。
声を震わせた山田の頬を、涙が
「みんな、死んでいないんだ。本当に無事で、助かったんだ。……でも、そこで化け物に襲われて、それで散り散りになって……。みんな……みんな、アイツに殺されちまったんだ!」
山田は
怒りを
「どうして、誰も信じてくれないんだよっ!」
そんな山田の背中を見ながら、僕は何とも居た堪れない気持ちになった。
──彼は、おかしくなってなどいない。
僕らが事故後に実際に体験したことを──事実を説明しているに過ぎない。
当事者であるからこそ、僕にはそれが分かった。
「何なんだろうな……」
僕は山田に手を伸ばした。僕の手は山田の皮膚を
──僕と山田との違いは何なのだろう。
彼は生きて、僕は死んだ。何が生死を分けたのだろう。
バスの車内を捜索した時、確かにそこから山田の遺体を発見することはできなかった。その場で山田の死亡を確認できてはいない。
——まぁ、それは僕とて同じである。
僕の遺体も、あの場からは発見できなかった。
それなのに、
悲しみに暮れる山田を前に、僕も自分自身の境遇を
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