一夜の死神

霜月ふたご

初日

始まりは事故から

 バスツアーに参加した老若男女二十六名──。

 山奥にあるレジャー施設『ポートリアーヌ・アイランド』へ向かう途中に、その事故は起きた。

 連日休みなく働いていたという運転手の山田がハンドル操作を誤り、バスは山道のガードレールを突き破った。

 そのまま車体は断崖絶壁を転がり落ち、大きな火花を上げたのだった。

 後の山田の証言によると「目の前に女の子が飛び出して来たので、ハンドルを切ってしまった」とのことらしい。ところが、それが事実であるという証拠は見付からなかった。

 たまたま事故の様子を捉えていた設置型の防犯カメラにも、女の子の姿など映ってはいなかった。

 捜査班が懸命に映像を解析したが、やはり女の子の姿を捉えることは出来なかった。


 山田のこの証言は、なきものとされた。

 そして──彼が罪から逃れるために嘘の証言をしたのではないか──或いは、疲労から幻覚でも見たのだろうと世間の目は冷ややかだった。

 山田を働かせ続けたバス会社には、かなりの苦情や批判が寄せられることとなる。


 ──いや、それよりもこの話で重要なことは、山田の操縦ミスによって重大な事故が起こったという事実である。

 どの様な原因でその事故が起ころうとも、実際に事故に巻き込まれて被害を被った人たちが存在しているのである。


 舗装がされていない山道からバスはコースアウトし、断崖を谷底へと転がり落ちていった。

 これにより、乗客二十六名の死亡が確認された。

 ──しかしまた同様に、乗客二十六名が無事であることを僕らは確認することとなる。

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