ジェリービーンズ
Fumi
ジェリービーンズ
ジェリービーンズ
今時ジェリービーンズなんて売ってないよなぁと、別に好きでもないけれど買ってしまったジェリービーンズをなんとなく口に運んでいた時、四年付き合った彼女が別れを切り出してきた。口の違和感も相まって、一瞬何が起きたのかわからなくなった。
出会いも突然なら別れも突然、当然であり必然なんだ。とわけのわからないことをぐるぐる考えているうちに、あんなにも近くに感じていた目の前のショートカットで、表情豊かな女の子が、今は遠く感じた。
思えばそんな気はしてたけれど、まぁ実際に言葉として耳に入ってくると人間意外とあっさりしていて「そっかー」くらいの言葉しか返せなかった。
大した恋愛なんてしてこなかったけど、友達の話やそこらへんを総括すると一度離れてしまった気持ちは二度と戻ることは無いらしい。そういえば最近の彼女はだいぶ僕から遠ざかって、出来るだけ会ったりしないようにしていた気がする。
「ちなみになんで?」という問いかけに、彼女はワンテンポも置かずまるで待ってましたと言わんばかりに「もう前みたいに好きな人として見れなくなった」とこたえた。
–––僕は幼稚園の頃まではピザが大好きだった。大好き過ぎて当時無垢な幼稚園生だった僕はピザを阿呆みたいに食べた。そしてその夜吐いた。それ以来全くピザを食べれなくなってしまって、おまけにチーズも食べれなくなった。もう前みたいにピザを好きな食べ物としてみれなくなった。というわけである。
ピザからしたらいい迷惑だったと思う。勝手に好きになったと思いきや、勝手に嫌いになりやがって、挙げ句の果てには自分の周りのものまで嫌いになって。そんなピザの呪いが二十四歳の男に今こうやって効いてるのか–––
全く関係ないところまで思考が走り込んでしまったタイミングで彼女は一言「ごめんね」と呟いた。
ピザの話なんてどうでもいい、そもそもピザと今回の件は全く別物である。悪いのは僕だ。いきなり走らせたせいで少し息が上がっている思考をもう一度部屋に戻して、呼吸を整えさせた。"この状況の答え、わかるか?" 汗が滲んだ首を横に振られた。"よしじゃあ、綺麗な終わり方を全力で考えよう" まだ息が整っていない様子だったが、彼は頷きまた走り出した。僕はというと内心そわそわしながらも少しとぼけた顔を作っていた。
数秒が経ち、急いで戻ってきた彼が手にしていた台詞を僕は内容も確認しないまま放り投げた。
「もうそれはどうしようもないの?」
僕の後ろで真剣な顔して彼女を見ている彼を睨みつけた。まだ肩で息をしている。わかりきってはいたが、恐る恐る彼女に視線を戻すと「うん」とはっきりこたえた。僕は四年間この人と一緒に居たから知っている。世の中に絶対なんてないというけれど、この人の決断は絶対なのである。すなわちこの「うん」を聞いてしまった時点であの質問は終わって未来なんてないのだ。それくらいわかるだろうと、後ろにいる彼を振り返ったら、目を丸くして口をおさえて衝撃を受けていた。どこに勝算があったのかと小一時間問い詰めたいが、もうどうでもいい。とりあえずゆっくり休んでくれと伝えると少し悲しそうに自分の部屋に戻っていった。
ようやく頭の中が空になった僕は、小さな器に袋からジェリービーンズを移した。黄色は楽しかったこと、青は悲しかったこと、赤色は胸が熱くなったことになぞらえて。出来るだけ自然に振舞いながら「いる?」と聞いた。予想外だったのか、それとも単純に迷っていたのか少し間が空いた。「一個食べてみな」おそらく僕史上一番優しい口調だったのだろう、彼女は器に手を伸ばした。どの色を取ったのか気になったけど、僕の部屋の薄暗い照明はそれを確認することは許してくれなかった。一つ口に入れた彼女は「変な味」と人の倍のしかめっ面を見せてくれた。「誰が好きなんだろうね、こんなの」「ほんとだね」。
暫くして、一人になった部屋で残ったジェリービーンズを一気に口いっぱいに詰めた。途中袋からこぼれた赤と青のジェリービーンズが机の上でころころと転がり、ぶつかって赤色だけ落っこちた。また息を荒げたあいつがそれを拾って「このお菓子ってアメリカのレーガン元大統領が大好きだったらしいっすよ」と教えてくれたが、僕はそれを無視した。
ジェリービーンズ Fumi @tadafumi_n
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