148 魂紋探知機

 ダメだ。なんの手掛かりも得られない。


 ピラミッドのふもとで壁にもたれ、紗那は額の汗を拭った。

 恐らく十フロアは巡っただろう。どのフロアも多様性に富み、地下とは思えないほど広大で、天井に映し出された天候は地下であることを忘れさせるには十分だった。


「誰か来るよ」

 陽炎が言った。

 ピラミッドから数百メートル離れたスフィンクスの影に男の姿があった。

 次第にその姿がはっきりしてくる。黒髪、黒い瞳、中背で細身、整った顔立ちに見覚えはない。

「ちょっと」

 その男は言った。

「困りますよ。勝手にこっちに来てもらっちゃあ」

 顔をしかめ男性を食い入るように見る紗那。

「誰ですか」

「佐伯です」

 紗那は後ろに飛び退いた。

 佐伯は笑ってお腹をおさえた。

「あなたも、相当人間離れした姿をしていますよ」

「佐伯さんって、あの佐伯さんですか」

「はい。そちらは」

 佐伯は陽炎を指差した。

「ポポです。ポポ・ド・ウ―クン。昔、体を失って、ずっと無人都市の階層にいた幽霊みたいな子です」

「そうですか。よろしく」

 佐伯は右手を差し出した。ポポは自らの揺らめきの中から、細長い腕型の陽炎を差し出して握手した。

「私、こちら側ではムム・ミュゼ・ラフオートと名乗っています。ムムと呼んでください」

 佐伯ことムムは、肩から下げたショルダーバックから手の平大の機械を取り出した。

「これを使いましょう。摩主楼君の仮魂紋を入力してあります」

 機械のレーダーモニターに映し出された点が、明滅を繰り返している。平面表示を3D表示に切り替えると、おおよそ摩主楼のいる階層が特定できた。

「地表に最も近い第一階層にいるようですね」

 紗那は右手を額に当て天井を仰いだ。ポポも細長い陽炎を出して、頭部分に当てると上を向き「あっちゃー」と言った。

「全然違うところを探していたんだ」

 溜息まじりに言葉を吐く紗那。

「早く向かいましょう」

 ムムに促され、二人はドーム型エレベーターを目指した。

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