141 帰り道

 地上には空気もあったし、放射能を除去するギジュツというものもあるらしい。


 ただ完璧に回復したわけではないから、所々空気が薄い場所では、貧血症状を起こさないように、気を付けないといけないらしい。


「あんた愛されてるんだよ。お母さんの言うことはちゃんと聞きな。私は小さい頃、なんにも言ってもらえなかった。関心がなかったんだよ」

 マリナさんがちょっと寂しそうに言ってくれたことを、荒れ地を走るジープに揺られながら思い出した。


 帰ったら、ルナとお母さんに謝らないとな。


 ジープが地下シェルター都市の入り口に着くのに、そう時間はかからなかった。


「坊主着いたぞ」

 キュラスさんが申し訳なさそうに言った。

 テントの中で、マリナさんに怒られるのをかばってあげたんだけど、それが逆効果になってしまった。『こんなに素直でいい子を危険な場所に誘い出すなんて!』って真っ赤な顔で怒られていた。


「ありがとう。キュラスさん。楽しかった」

 キュラスさんは俯いて頭をポリポリ掻いていた。

 小さい声で「おう」と言ったような気がしたけど、気のせいだったかもしれない。

「今度はちゃんと許可を取って、手伝いに来るよ」

 キュラスさんが嬉しそうに笑うと僕もつられて笑った。

「またな坊主」

「ありがとう。また来ます。それじゃ」

 僕は軽く頭を下げると、地下への入り口に通じる大きな扉のスイッチを押した。

 ゆっくりと重い扉が上へとスライドしていき、格納庫のようなエレベーターホールが姿を現した。


 一歩一歩、足を踏み出す度、なぜか、涙が零れた。なんでだろう。懐かしいような。愛おしいような。不思議な気持ちに包まれた。

 こんな何気ない毎日もいつか終わって、この星や、この星が回る太陽にも、いつか終わりがやってくるのだろうか。僕たちはどこからきてどこへ向かうのだろう。


 そんな思いが突然込み上げてきた。

 涙は止まらなかった。

 愛おしさも止まらなかった。

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