第413話 戦いが始まる



邪神王が語るには、邪神王自体には善悪などというものはないらしい。

単にエネルギーの集合体。

偏った意思のあるものの存在の破壊。

人という生命体が一番多くの意思を持っている。

その意思の集まりが偏ってくると邪神王が自然と現れ、その生命体が消滅、または減数されるのだそうだ。

そして、その存在が浄化されたときに邪神王は消滅する。


消滅後の世界に俺とフレイアが新たな生命体として選ばれたという。

結構なことだ。

・・・

俺は少し考えて邪神王に話した。


「邪神王、俺は今のままでいい。 そんな世界はいらない。 俺の生きている世界は今この時間ときしかない」

邪神王が返答する。

『どういうことだ。 貴様の中には不自由、不満が満ちているぞ』

俺は少し笑い言う。

「それでいいのです。 俺は神ではないし、なりたくもない。 この魔法やレベルのある世界・・以前の俺の世界と比べたら、最高です・・本当に・・それだけで、十分ですよ」

『・・神になりたくないか・・なるほど・・これが、貴様の過去か・・では、それを示せ』

!!

なるほどって・・そうか!

俺の思考を読んだのか!

・・ヤバいんじゃないか?

でも、何やら邪神王が納得している。


邪神王がテツに言う。

我と戦い、その存在を示せと。

我自身では自分をコントロールすることなどできない。

ただ現れ、エネルギーを消費し尽くすまで消えることはない。

そのエネルギーの規模によって邪神とか邪神王などと呼ばれているようだ。

勝手な話だ。

人という生命体目線でみれば、我が悪意あるものに見えるのだろう。

だが、目線を変えればどうか?

違う視点からは善意と映るのではないのか?

・・・・

・・・

そんな会話をしていると、テツは邪神王の中からはじき出された。


アニム王たちのいる場所のところへ飛ばされる。

俺は地面を滑りながらも無事着地し、アニム王の前に到着。

アニム王が驚いた顔をして俺を見る。

「テ、テツ、大丈夫かい?」

「テツ様、大丈夫ですか?」

レアも心配してくれている。

・・・

どうやら俺が邪神王にとらえられてから、時間の進行がなかったようだ。

邪神王に吸い込まれ、すぐに弾き出された感じかな。


俺は、邪神王の中であったことをアニム王たちに手短に話した。

・・・

・・

「なるほど・・邪神王を倒さない限り、私たちに明日はないということか。 だが、テツのおかげで希望ができたよ」

アニム王が微笑む。

全員がアニム王を見る。

「邪神王は戦って示せという。 そしてエネルギーを消費し尽くしさえすれば、消滅するとも語っている。 つまり倒せるということだ」

アニム王がそう言うと、みんなの顔に笑顔が戻る。

だが、次のアニム王の一言で引きつった笑顔になる。

「ただ、そのエネルギー規模がわからないのですけどね」

アニム王が微笑みながら言う。

その間、邪神王は静かに両手を上空に挙げていた。

・・・

エネルギーは集まらなかったようだ。


さて、アニム王の話で皆少しは光が見え、絶望ではないことを知った。

ただ、その光は針の穴に弾丸を通すようなものだろう。

後は、自分の持てる力を全力で向けるだけだ。

俺は指先一本動かなくなるまで、息がある限り戦ってやるとその瞬間に思った。

そして、フレイアに念話と飛ばしてみる。

『フレイア・・』

・・返事はない。


とにかくやるだけだ!

アニム王以下、みんなの覚悟は決まった。

チラっと待機している連中を見る。

まだ起き上がれないようだ。

優たちはまだまだ戦えそうにないので、その場で待機だな。

アリアンロッドだっけ、あの人がみんなのそばで待機してくれていた。


俺たちは邪神王の方を見る。

邪神王はその青白く光る、フレイアに似た身体をゆっくりと動かしていた。

時間は1時を過ぎただろう。

アニム王を先頭に、俺と騎士団長、レアとレアのロイヤルガード、そしてその後ろに神聖術師たちが5名だ。

たったこれだけの人数だが、それでもやるしかない。


邪神王との距離が詰まって来る。

!!

突如、邪神王の右腕が伸びて来た!

青白い塊がゴムのように伸びてきて俺たちのところへ向かってきた。

シュパーン!!

俺たちのレベルでそれくらいの攻撃に当たるような間抜けはいない。

邪神王の腕が伸びたところを境に左右に分かれた。

俺たちのいたところの地面はきれいにえぐれている。

細い谷ができた感じだろうか。

そのまま青白い塊がムチのように動き出す。


そのうちに左腕も同じような動きになる。

・・・・

しばらく俺たちは避けるだけになっていた。

何とか避けることはできている。

だが、邪神王は疲れることはないらしく、同じ速度で同じ攻撃を繰り返してくる。

俺たちの方は段々と疲れがたまって来ていた。

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