第405話 テツの帰還



帝都の上空、雲の上。 

何とか呼吸ができるほどの上空。

イリアスがテツを抱えて飛んでいた。

アニム王が上空を見上げる直前だろうか。


「テツ、気づいていると思うが、地上付近で邪悪なる虫がうごめいているようだ。 また少し離れたところでは奇妙な魔素の集まりもあるが・・」

イリアスが言う。

「はい、下の変な魔素のようなものはわかります。 ただ、少し離れたところのはわかりませんが・・とにかく、イリアスさん。 ありがとうございました」

テツが答えると、イリアスはテツを放す。

テツは空中で向きを変え、イリアスに向かって微笑みを重ねてお礼を言った。

「イリアスさん、本当にお世話になりました。 行ってきます!」

テツはそう言いながら、自由落下に身を任せる。


イリアスはニヤッとすると、そのままテツを見送っていた。

テツ、我々にできることはこれくらいだ。

我々龍族は何もできない。

神がそれを望んでいないからな。

・・テツ、死ぬなよ。

イリアスはそう思うと、来た道を戻って行く。

テツは自由落下に身を任せていたが、少し遅いなと感じていた。

身体に気をまとわせる。

神光気しんこうき

テツの身体を金色の混じった白い光が覆う。

テツは気づいていないかもしれないが、瞳の色が変化している。

金色に輝いていた。

そのまま加速、落下していく。


◇◇


アニム王がフト上空を見上げ、ほんの一呼吸した時だ。

落雷のような衝撃音が響く。


ドーーーーーーーーーーーン!!!


武装ロイドに直撃したように見えた。

騎士団員たちも全員ビクッとなった。


レアのロイヤルガードが一斉にレアを見る。

「え? わたくしではありませんわよ」

レアが驚いている。

騎士団員たちの誰ともなくつぶやく。

「・・ら、落雷?」

「・・雷か?」

・・・

・・

白い霧のようなものが、武装ロイドのところから流れていた。

その煙とも霧ともわからない、モヤモヤしたものがゆっくりと流れ消えていく。


アニム王も騎士団員たちも目を見張った。

武装ロイドがはっきりと見える。

黒く光る機体。

そして、左腕が肘の部分から消滅していた。

すぐに黒い霧のようなものがまた、武装ロイドを覆っていく。


その武装ロイドの前に1人の人が立っていた。

その背中をアニム王も見ている。

優が最初に気づいたのかもしれない。

!!

「・・あれって・・まさか・・」

優の横にいたレイアが前をジッと見つめる。


アニム王がテツの背中を見つめつつ、理解した。

「フフ・・遅いお帰りだな、テツ」

アニム王は微笑んでいた。

武装ロイドは動いていない。

俺はその声を背中で聞き、ゆっくりとアニム王に振り返る。

「遅くなりました。 ただいま帰りました」

俺はそう言って、照れたような顔をした。

直後、武装ロイドが動き右手に備わっているブレードで斬りかかってくる。

「おっさん!!」

思わず優が叫ぶ。


ガキーーーーン!!

俺は振り向きもせず、武装ロイドの剣を飛燕で受けていた。

受けてすぐに剣を払い、武装ロイドを横薙ぎに斬りつける。


武装ロイドは後ろに下がりかわしていた。

だが、飛燕が斬ったところに亀裂が入り、武装ロイドを覆っていた黒い霧のようなものが消えている。

すぐに黒い霧で覆ってしまうが。

ルナがつぶやく。

「テツか・・だが、あの感じは・・」

その声の横、レアがルナを一度見て、またテツを見る。

「テツ様、ですか・・」


「ググ・・私の腕が、腕がぁぁぁ・・あなたはいったい何なのです?」

アサシンは焦るというよりも激高していた。

俺は武装ロイドを見ながらアニム王に念話を飛ばす。

『アニム王、細かいことは後で伺います。 今は、邪神王の復活を阻止すべく動かれるのですね』

『そうなのだが、私がここから離れると皆がやられてしまうし、前面の武装ロイドとやり合っても時間ばかりが過ぎる。 困っていたのだよ』

アニム王が言う。

『アニム王、私がここを受け持ちます。 是非、邪神王のところへ向かってください』

『しかし・・いや、テツに任せよう。 よろしく頼む』

『はい、お任せを』

アニム王は余計なことは言わず、レイソードを収納すると騎士団員の方へ下がって行く。

俺は背中越しにアニム王が下がって行くのを確認すると、武装ロイドに向かって構えた。

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