第394話 モレク猊下の言葉



◇◇


フレイアが帝都から消えて3日が経過。

時間は13時頃。


「優、この頃フレイア姉さんを見かけないのよ。 お店も開いてないみたいだし・・」

レイアが優に話す。

「ほんと? 俺はカフェに寄らないからわからないな」

優が答える。

「お店に来ていた学生に聞いてもわからないっていうし、念話も届かないみたいなの」

レイアがかなり心配しているようだ。

「念話が届かないのか?」

優がオウム返しで答える。

「何かあったのかしら・・でも、あの姉さんをどうにかできる人なんているのかな? ハイエルフだし・・」

レイアがそういうと、優は少し笑ってしまった。

レイアが優を見つめる。

「ごめん、レイア。 でも、レイアの言う通りだよね。 俺だって勝てないよ」

優はそう答えつつ、レイアと見つめ合ったまま2人でう~んとうなっていた。


◇◇


<帝都王宮にて>


王宮会議室。

アニム王と重鎮が話し合っていた。

時間は14時頃だ。


会議室のドアがノックされ、人が入って来る。

「アニム王、ご報告いたします」

皆が開かれたドアに注目した。

入って来た男は顔が引きつっていた。

「どうしたのかね?」

アニム王が聞く。

「はい、例の反アニム連合国を集めて作っていた街のギルドですが、連絡が途絶えました」

アニム王は報告をしている男を見て問う。

「どの街のギルドだね?」

「そ、それが、3つのギルドすべてです」

アニム王はその報告を受け、席から立ち上がった。

そして、直感的に感じた。

ついに始まったのかと。


アニム王は少しの間硬直していたが、周りに指示を出していく。

再度ギルドの周辺の確認と、騎士団の調査派遣。

近くの街のギルドなどの警戒レベルの引き上げなどなど。


◇◇


<邪神教団本部>


反アニム連合の残党が集められた3つの街。

今となっては、すでに邪神教団以外に存在しないと言っていいだろう。

邪神教団の魔術刻印をほどこされた住人以外は街にいない。


数時間前。

宗主のところへそれぞれの街の盟主たちが集まって来ていた。

彼らはまだこの老人が邪神教団の宗主ということを知らない。

「モレク殿、いったい何かあったのでしょうか?」

シュナイダーが声を発する。

ソフィアは横で嫌な顔をするが、黙って座っている。

ジェームズたちも席についてモレクを見ていた。


モレクが話し出す。

「皆様にお集まりいただきましたのは、おそらく今日でお別れになるからです」

モレクは微笑みながら会場を見渡す。

いきなりのことで皆言葉がでない。

モレクは続ける。

「時が満ちました。 最後のパーツが揃ったのです。 皆さま、本当にありがとうございました。 そして、最後にして最大のチャンスです」

そういうと、モレクが上着を脱ぐ。


年齢に似合わず、がっちりとした身体だ。

集まっている人の前でいきなり上着を脱ぐ。

変態という目線で見るものもいるようだ。

だが、その異様な背中の模様を見た瞬間に、誰もが言葉を失う。

モレクが言う。

「我々は邪神教団という集まりの一員です。 この魔法刻印はその証です」

背中の魔法刻印がほんのりと赤く光っている。

「この場にいる皆さまは、先の大戦で傷を負われた方々ではないのですか? 救いが必要ではありませんか? 我らの世界の神は、その願いを叶えてくれます」

モレクが自分の言葉に酔ったように話す。

会場から声が飛ぶ。

「我ら地球にも神はいる」

モレクはその声を聞きながら答える。

「その神はあなた方に手を差し出してくれましたか?」

・・・

少しの沈黙が流れた。


「我々の神の祝福をお見せしましょう」

モレクがそう言うと、一人の若い女の人がモレクのそばまで歩いて行く。

若い女がそっと左腕を水平に差し出す。

モレクが右腕をスッと振り下ろす。

ボトリ・・。

自由落下で若い女の人の腕が床に落ちる。

!!

直後、腕から血しぶきが舞う。

会場がザワザワと騒ぎ出した。

モレクがそっと若い女の左腕に手をかざし、治癒魔法をかける。

ほんのりと緑色の光に包まれると血が止まり、腕の落ちたところが白く形を成したかと思うと、腕が再生していた。

街の住民も回復魔法は知っている。

だが、身体の欠損部分の再生は知らされていなかった。

モレクが意図して、地球人たちには教えなかったものだ。

そして、敢えてアニム王国との交流もさえぎって来た所以ゆえんでもある。

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