第378話 報告


◇◇

<アニムside>


ワイバーンが風を切り空をかけていく。

間もなくアニム王国の帝都に到着するだろう。

フレイアは少し寝ていたようだ。

ワイバーンを操っている騎士団員はしっかりと前を向いている。

時間は5時前。

俺は眠れなかった。

そして、何も考えれなかった。

ただ景色が流れていくのを見ていた。

フレイアが目を開けて、俺を見る。

「・・テツ。 あれ? 私寝ていたのね」

微笑みながら言う。

俺も微笑んでうなずいた。

「間もなく到着です」

騎士団員が教えてくれる。


雲の中に突入し、王宮の中へ下りて行く。

ゆっくりと地上に到着し、ワイバーンが翼を軽く羽ばたかせるとその場で休息し出した。

余程疲れたのだろう。 

ありがとうワイバーン。

そりゃ、戦闘後すぐに送ってもらったからな。

騎士団員も嫌がらずに送ってくれた。 

いい人たちばかりだ。

そういった小さな親切が心にグッとくる。

「ありがとうございました」

俺とフレイアは騎士団員とワイバーンお礼を言って、王宮の中へ向かって行く。

係の人がいたので、アニム王に面会を求めた。

すぐに案内してくれる。


大広間に案内してくれた。

それほど人は多くはないが、アニム王と騎士団長、王宮関係者、ルナやドワーフなどがいた。

俺が大広間に現れたら、アニム王がすぐに気づいてくれて微笑んでいる。

俺は急いでアニム王のところへ向かおうと思ったが、足が思うように動かない。

重い・・。

歩く速度で向かって行き、アニム王の前に来た。

「テツ、ご苦労だったね。 疲れただろう、休んでくれたまえ」

アニム王がねぎらってくれる。

フレイアも俺の横で黙って立っていた。

俺が言わなきゃいけない・・言うんだ!

自分に言い聞かせるように、アニム王を見る。

「・・アニム王、ただいま戻りました。 あの・・少し大事な報告があるのですが・・」

俺がそういうと、アニム王の目が少し見開かれて、奥の部屋へ行こうと言って一緒に向かった。


奥の部屋は、中の会話は外へは聞こえないようになっている。

アニム王と俺、フレイアとルナ、騎士団長が席につく。

俺は全員を眺めて、アイテムボックスから紫色の宝玉が埋め込まれたミランの剣を取り出した。

ゆっくりとテーブルの上に置く。

それだけでわかったようだ。

アニム王が震えていた。

「・・ミ、ミラン・・・」

ルナは目を閉じている。

「・・フレイム・ダンサー・・あのミラン殿が・・」

騎士団長が椅子から立ち上がっていた。

・・・・

少しの間、沈黙の時間が流れる。

「・・アニム王、私の目の前で・・ミランさんが消えました」

「そうか・・」

俺がそう報告をすると、アニム王が下を向いて震えている。

どうやら泣いているようだ。


まだ報告をしなければいけない。

「ルナさん・・」

俺がそういうとルナは目を開けて俺を見つめる。

俺は目を閉じて、テーブルの上にウルダの斧を置いた。

ルナは表情を変えずに斧を見つめている。

「ルナさん、俺たちが現場に行った時にはウルダさんの斧だけがありました。 言いにくいのですが、ウルダさんの生死は確認していません。 もしかして、連れ去られたのかも・・」

俺がそこまで言うと、ルナが静かに話す。

「ありがとう、テツ。 だが、ウルダがこの斧を手放すとも思えぬ」

そういうと、ルナは斧に軽く触れる。

・・・・

スーッとルナの頬を一筋の涙が流れた。

「・・そうか・・」

ルナはそうつぶやくと席を立ち、ウルダの斧を自分のアイテムボックスに収納。

俺たちに背中を向けて言う。

「アニム、ダンジョンに戻っている。 それからテツ、礼をいう」

ルナがゆっくりと部屋を出て行こうとしていた。

「ルナさん・・」

俺は思わず声をかけた。

「・・テツ、ウルダは斧に己のすべてを込めて自害したようだ」

ルナはそれだけを言って部屋を後にした。


俺たちは誰も声をかけることができない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る