第369話 エリス



◇◇

<アニムside>


エリスの固有スキル:加速+加速+超加速。

自身の動きの速度を上昇させる、というよりも時間を圧縮する。

極限近くまで圧縮。 

いわば、自分以外の時間が止まっているように感じる。

その中を自由に動き回る。

ただ、無制限の時間動けるわけではない。

通常の体感時間で10秒ほどだろうか、その間にメリッサの攻撃が繰り出される。

言ってみれば、停止している相手を自由に攻撃できるわけだ。

例外もあるようだが、今の連合国のレベルやスキル持ち程度では意味がない。


エリスは停止した<実際には非常にゆっくりとだが動いている>相手の中を悠然と歩いて行く。

とあるところで停止。

エリスが剣を構え、言葉を静かに発する。

「レーヴァテイン・フロッティ」

エリスの右手に握られた剣を前方にそっと突き出す。

まるで地平線まで届くかのように、剣先から一直線に白い光の筋が突き抜ける。

エリスの剣がわずかに左右に振られる。

その剣の動きに従って、武装ロイド群に光の白い線が描かれていく。

武装ロイド群に変化はない。 

ただ、その表面には白く光る筋が残っている。

これで攻撃が終わったわけではない。


エリスがまた位置を変えて同じ動作を繰り返す。

地上の他の武装ロイドにも白い線が入っている。

まるでキャンバスに筆で描いていくかのような感じだ。

爆発や消滅はない。

次にエリスは上空に向けて剣を突きだす。

「レーヴァテイン・フロッティ」

上空の戦艦を一気に突き抜け、雲を越えて白い光が伸びて行く。

エリスの握っている剣が8の字をいくつも重ね描いたように動く。

その動きに呼応して戦艦群5隻に白い線が入っていた。

エリスは剣を収納すると、先程モニターに映ったであろう元の位置に戻り軽く頭を下げる。


◇◇

<連合国side>


連合国側の艦隊。

エリスを捉えていた映像を見ていた。

細身の髪の長い女がモニターにゆっくりと優雅に現れたと思った。

スッと立ち、細い剣を抜いていた。

直後、消失。

そして、モニターから消えたと思ったら、まばたきほどの間にまたいきなり現れた。

今度は頭を下げている。

そこまでだった。

武装ロイド群と戦艦群が一斉に爆発、その後消滅していた。

エリスの描いた白い光の筋が一斉にはじけたのだ。

見た目には、真っ白に眩しい閃光が見えると同時に戦艦群が爆発。

それに続き消滅したように見える。

武装ロイドにしても同じような感じだ。

遠目に見ると、まるで白いバラが咲いたような感じに見えたかもしれない。


この空域を任されている指揮艦艇の艦橋では、混乱が起きるよりも何が起きているのか理解できなかった。

モニターに移し出された細身の女。

いきなり消えたかと思うと、すぐに現れてお辞儀をしていた。

すると、いきなり前方の戦艦群に白い光の輝きが見え爆発している。

地上では武装ロイドが同じように爆発し、消滅していた。

艦長は何が起こっているのかわからない。

いや、誰にも理解できないだろう。

時間にして数秒ほどのことだ。

何が起こっているのだ? 

いや、何かが起こるような時間はなかった。

いったい何だ?

艦橋で言葉を発するものはいない。

だが、オペレーターだけは報告をしっかりとしていた。

「艦長! 前方で白い光の後、我が戦艦群が爆発、そして消滅。 地上武装ロイドも同じく消滅した模様・・」

艦長は聞き流す。

静まり返った艦橋にオペレーターの声が妙に響いていた。

そして、誰もが冷静に聞こえるはずもない。


◇◇

<アニムside>


レアは戦場の光景を見ながら完全に酔っているようだ。

「あぁ、エリスの棘の白薔薇:レーヴァテイン・フロッティ・・きれいだわ。 はぁ、セレネー・・もう、ダメですわ。 こうなったら・・」

レアの首の後部、セレネーが当て身を繰り出していた。

手刀で首を刈る。

ストン!

レアはそのまま前のめりになり倒れるが、セレネーがそっと優しく支える。

「まったく姫様は・・」

セレネーはそうつぶやくと、レアを横の壁にもたれかけさせてローブをかけた。

そして、そのまま現状を見る。 

どうやらこちらの勝利のようだ。

だが、全滅させるわけにもいくまい。

セレネーが念話を送る。

『皆さん、ご苦労様でした』

『『『え? セレネー?』』』

戦場でいるみんなが一瞬驚く。


すぐにセレネーが状況を説明する。

『姫様には今休んでもらっています』

『何かあったの?』

フローラが少し焦ったような感じで聞く。

『いえ、いつもの病気ぼうそうです』

『『『・・・・』』』

みんな納得したようだ。

『さて、皆さん、どれを残しましょうか?』

セレネーが問う。

『そうですね、旗艦だけでいいかと思いますけど・・』

エリスが答える。

『私もそう思います』

フローラも賛同する。

後のみんなも同じ考えだ。

『わかりました。 では、その方向でお願いします』

セレネーがそういうと、アウラが聞いてくる。

『あの・・投降してきた場合はどうします?』

『そうですわね・・その時の皆さんの判断に任せます』

『セレネー・・姫様の話し方に似てきたぞ』

アウラがからかう。

皆の笑いが聞こえるようだ。

『では皆さん、よろしくお願いします』

セレネーはそういうと、レアを優しく見つめる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る