第363話 帝都周辺
<アニムside>
「我々は、間もなく合流地点に向かって出発しますが、テツ殿たちはどうされますか?」
スバーハが聞いてくる。
無論、俺たちも行く。
俺はそう答えた。
フレイアもうなずいている。
「そうですか、ありがとうございます。 心強いです。 ですが、テツ殿・・魔法を使う時は一言お願いします」
スバーハが笑いながら言う。
俺たちもカラカラと笑い合った。
笑えるのはいいことだ。
◇◇
<帝都周辺:連合国side>
帝都周辺には戦艦40隻、空母6隻が迫っていた。
航空部隊も先行して帝都付近を旋回している。
帝都は外からは雲の中にあるように見え、完全に目視することはできない。
相手にもはっきりとはわからないようだ。
「相手の位置はつかめたか?」
「はい。 派遣されていたものによりますと、あの雲がカムフラージュになっているようです」
前方に大きな白い雲が見えていた。
戦闘機で近づくも、雲に入ったかと思うと雲を突き抜けたところに移動していた。
それを何度か繰り返して、帝都を確認。
「総員、戦闘準備!」
指揮艦からの一斉指令が全艦隊に届く。
各部隊ではいろいろ勝手な会話が飛び交っていた。
「・・楽勝だろ・・」
「これだけの部隊だ。 どの国が相手でも問題ない」
「武装ロイドもいるんだ。 誰があんな化け物を相手にできるんだ?」
「俺たちが主人公か・・」
「・・ほんとに勝てるのか? 相手は異世界人だぞ・・」
「弓や剣しか持ってない文明の遅れたところというじゃないか・・」
・・・・・
・・
ザワザワと各艦艇で楽観的な会話が多くを占めていた。
気分も高揚していたようだ。
前方の白い雲の上に一つの黒い小さな物体? 人? が目撃される。
「艦長、前方に何やら小さな物体が見えます」
一番先頭に位置している艦艇の
「人です、人が浮いています! 黒髪の女のようです」
観測員が望遠レンズで見つけ、その映像を全艦隊に配信する。
全艦隊のモニターに映し出されていた。
輝く黒髪。
その髪をかきあげ、軽く首を振る。
まっすぐに見つめる目線。
ありえないくらいの美人。
「ヒュー! スゲー美人だな」
誰かが口笛と共に言葉を発する。
配信された映像を見つめている艦隊の中にはいやらしい笑い声も聞こえる。
「こんな戦場にあんないい女がいるとはな・・」
「あぁ、まるでヴァルキリーだ・・」
「俺もあんな女を抱いてみたいぜ・・」
「あぁ、全くだ・・クックック・・」
・・・
誰もが前のめりになりながら画像を見入っていた。
全艦隊がその黒髪の女一人に注目していただろう。
黒い髪の女は微笑みながらゆっくりと上昇していく。
どれくらい上昇しただろうか。
望遠レンズでもかろうじて判別できる程度になっていた。
その黒髪の女の右手がこちらに向いている。
◇◇
<アニムside>
ルナは上空から全艦隊を把握。 航空機に至るまですべてを把握した。
「・・座標軸固定」
小さく声に出す。
「その時間を固定・・アイソレーション!」
◇◇
<連合国side>
ルナに把握された全艦艇では混乱が起き始めていた。
「おい、何だ? 何故方向を変えないのだ」
「う、動きません。 反応しないのです」
・・・・
・・
戦闘機などもその場で止まっている。
すべての艦艇の時間が止まったようだった。
ルナは広げた右手の指をゆっくりと閉じる。
全艦隊がゆっくりと移動し始める。
「お、おい。 勝手に動いているぞ!」
「何が起こっているんだ?」
「う、うわぁぁあ、前から船がぁあ!!」
・・・・・
・・・
戦艦や航空機が1か所に吸い寄せられるように集まって行く。
◇◇
<アニムside>
ルナの左手に黒いバスケットボールくらいの球体が現れた。
それを敵艦艇群の中心辺りに向けて放つ。
「アンリミテッド・ハイ・グラビティ」
ルナは静かにつぶやく、それだけだ。
黒い球体が敵艦艇群の中心付近に到達。
黒い球体はバッと大きくなり、渦巻くように周りの戦艦群を吸い込んでいく。
渦に吸い込まれ、中心に近づくに従って艦艇は変形し消えていく。
音も吸い込んでいるようだ。
ただ、吸い込まれ変形するときなどに爆発光が見えるが、音はしない。
その静けさが余計に不気味に感じる。
艦艇群が渦に吞み込まれていく映像を帝都ギルドや王宮でもみんなが見ていた。
「・・・・・」
誰一人として言葉を出すものはいない。
いや言葉にならない。
ただ、無言で眺めている。
◇◇
<連合国side>
外から見れば無音映像を見ているようだが、その内側は阿鼻叫喚の嵐だった。
「・・な、なにが起こっているんだぁ!!」
「うぎゃぁぁ!!!」
「うぐっ・・」
「こ、こんな・・」
「あ、あの女はヴァンパイアの・・」
・・・・・・・
・・・
・・
この空域に展開していたすべての、すべての戦艦と航空機が黒い渦に飲み込まれていく。
◇◇
<アニムside>
帝都においては戦闘は発生しなかった。
言うなれば、一方的な虐殺とでも言えるだろうか。
最後の艦影が黒い渦の中に吸い込まれ、黒い渦が消えていく。
上空でルナが見下ろしていた。
「ふぅ・・終わったな」
ルナはそれだけを口にすると、ゆっくりと降りてゆく。
そしてそのまま王宮へと向かう。
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