第312話 自分の実力に見合わないことはするものじゃないな



「よし!!」

前衛の方で声がしたかと思うと、前衛の一人が前に飛び出した。

大きく剣を振りかぶり、バジリスクに向かって行く。

「うぉりゃぁ! 会心の一撃!!」

男が声を出しながら大剣を振り下ろす。

結構な速度だ。

バジリスクの前脚に剣が当たると同時に剣が折れていた。

ガキーーーン!!

「うわぁ、折れた!!」

男は急いで方向転換をして、プローメスの方へと戻ろうとする。

数歩動いた時だった。

動きが緩慢になったかと思うと、突然動きが止まる。 

!!

石化したようだ。


『うわ! 人が石化するのを初めて見たぞ。 怖ぇ・・』

俺はそんなことを思ってみていると、バジリスクの口から舌が伸びてきて、一瞬で石化した男を絡め取って食べていた。


!!!

「クッ! やべぇ!」

前衛のもう一人がそういうと、プローメスの方へと方向を変えた。

「ちょ、あなた! 何やって・・」

プローメスはそう言いながらも、攻撃魔法を発動していた。

炎の魔法のようだ。

バジリスクの周りに炎がユラユラと集まったかと思うと、つむじ風のようになりながら炎の竜巻が出来ていた。


「きゃぁあ!!!」

プローメスの後衛の魔法使いだろうか。

一人が今まさに食べられていた。

もう一人も声を出すとともに、動きがゆっくりとなって石化していた。

プローメスがまた違う魔法を詠唱している。

前衛の大剣を持った男と、プローメスの姿がうっすらと存在感がなくなったように感じる。


前方にいるバジリスクにまとわりついていた炎が消えると、やや黒くなったバジリスクがいた。

身体をブルブルと震わせて辺りを見渡している。

プローメスの後ろのバジリスクも同じように辺りを見渡している。

どうやら敵に姿を見えにくくする魔法らしい。

プローメスと大剣を持った男が急ぎ足でその場から脱出していた。

石化した仲間は見捨てたのか。 

いい判断だ。


しかし、そっちの方向は次のエリアの入口方向だが・・。

とりあえず、逃げるのに必死か。

それを見送っていると、バジリスクたちが喧嘩をしているようだ。

先ほど後衛でいた、今は石化した人の取り合いらしい。

バジリスク同士が体当たりをしていた。

ドーーーン!!!

体当たりをされたバジリスクが少し後ろへ吹き飛ぶ。

4つ足で踏ん張ると、今度は同じように体当たりをし返す。

まるで相撲でもしているかのようだ。

その間に残りの1体がノコノコと歩いて行って、石化した人をペロリと食べようとした。

それに気づいた2体のバジリスクが怒ったようだ。


「「ギィェェエエエ!!!!」」

3体がそれぞれ体当たりを繰り返す。

ドン! ドン! ドン!

結構、振動があるな。

その間に俺はダッシュをして石化した人をかっさらった。

バジリスクたちは気づいていない。

石化した人を見てみる。 

まるで今にも動きそうな感じだ。

とりあえずそっと横に降ろす。

そして俺はプローメスたちをみた。

バジリスクから400メートルくらい離れただろうか。

姿も徐々に見えだしてきたようだ。

その存在に気づいたバジリスクたちが3体でプローメスたちに向かって行く。

どうやら石化した人のことは忘れているらしい。


助ける義理はないが、これ以上食べられるのを見るのもなぁ。

そう思うと、俺はバジリスクに向かってダッシュする。

一呼吸でバジリスクの前に到着。 

同時に飛燕で下から斬り上げる。

ズパン!!

バジリスクの頭と胴を斬りはなす。

そのまま次のバジリスクへと向かい、横薙ぎに斬りつける。

きれいにバジリスクが横真っ二つになる。

さて、残るは1体だけだ。

初めに分かれたバジリスクは蒸発していた。


俺は動きつつ、最後のバジリスクの頭の下に来た。

バジリスクがこちらを向く。

向いた瞬間に下から斬り上げる。 

そして横薙ぎに斬る。

2体目、3体目とバジリスクは蒸発していく。


後には3つ魔石が残っていた。

う~ん・・この魔石も一応持っていくか。

俺は飛燕を鞘に収めると魔石を拾う。

プローメスたちの方を見ると、ゆっくりと俺の方へ近づいて来ている。

俺はすぐさまその場を去った。 

そのまま一気に地上へ向かっていく。


プローメスたちは不思議そうな顔をしてお互いに見つめ合う。

「・・俺達、助かったのか?」

「そうね、助かったみたいね」

「あれは、誰だったのだろう?」

「さぁ、わからないわ。 とにかく、地上へと戻りましょう・・」

大剣を持った男は、難しい表情をしてうなずいていた。

二人は重い足取りで入って来た方へ歩いて行く。

「この辺りだったわね、誰かいたのは・・」

バジリスクが消滅した辺りに到着し、プローメスが静かにつぶやく。

「あ! あれ、もしかして・・」

そう言いながら駆け出していた。

石化した人に近寄りいろいろと触り確かめている。

「うん、これなら大丈夫ね。 神殿へ行けば回復できるわ」

「プローメスさん、いきなり走ってどうしたんですか?」

大剣を持った男がそう言いながら近づいてきて、気づいたようだ。

プローメスと目を合わせると、プローメスが大きくうなずく。

大剣を持った男が丁寧に石化した人を担ぐと、顔が少し明るくなっていた。



俺はすぐに地上へと到着。

時間は9時30分前になっていた。

魔物討伐よりも、移動に時間がかかるようだ。

少し寄り道もしたしな。

さて、ガルムのおやじのところへ行こう。


ドワーフの店の前に到着。

ドアを開けて入っていった。

「いらっしゃい」

ガルムが俺の方を見て、ニコッとした。

「テツさん、ダンジョンへ向かったんじゃなかったんですかい?」

「あぁ、ダンジョンへ行って来たんだよ」

俺がそう答えると、

「え?」

ガルムのおやじが口を開けてポカンとしている。

「行ってきたって・・ワシが依頼したのはレベル35位の魔石なんですよ。 いくら何でもそんな簡単に・・」

ガルムのおやじがしゃべり終わる前に、カウンターのところへサーペント:レベル37×2、ハーピー:レベル36×4、ヒュドラ:レベル41の魔石と、バジリスク:レベル31×2、レベル30×1の魔石を俺は並べた。

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