第308話 日常



時間は5時。

俺は服を着替えてリビングへ向かう。

今日は静かな朝だ。

一人でコーヒーを飲み、ゆっくりとした時間を味わうことができた。

さて、まずはばあちゃんの家に挨拶して来よう。

時間は5時半過ぎ。

ばあちゃんの家の前に来ると、家は明かりがついている。


さすがに早起きだな。

呼び鈴を押してみる。

「はーい」

しばらくすると、ドアが開かれた。

「おはよう、ばあちゃん」

「おはようさん」

ばあちゃんはそう返答すると、俺を中に入れてくれた。


リビングへ向かいながら、何か食べるかい? と聞かれる。

今日は大丈夫と答えて、席に座らせてもらった。

「じいちゃん、おはよう」

じいちゃんはうなずく。

俺の敷地に新しく家ができたことは、凛たちから聞いたそうだ。


「どうしたんだい、テツ?」

ばあちゃんがお茶をれながら聞いてきた。

「うん・・なんかいろいろあったなって思ってね」

俺はつぶやくように話してみた。

ばあちゃんは何も言わずにお茶を飲みながら、俺を見る。


「そういえば、颯や凛たちが学校へ通うんだって・・昨日、入学式だったみたいだよ。 嫁さんやお義母さんも一緒に行くって・・優たちも行くみたいだったよ」

俺はそんなことを思いだして言ってみた。

「うん、そんなこと言ってたね」

ばあちゃんが軽く目を閉じて聞いてくる。

「・・で、テツは何が心配なんだい?」

!!

「い、いや・・心配じゃないんだ。 何か、俺だけ勝手なことをしてるなって思って・・」

俺はお茶を飲みながら言ってみる。


「ふぅ・・誰でも勝手なことをしているよ」

ばあちゃんがつぶやくように言う。

そして、続けて言う。

「・・テツ、誰かのために気を使ったところで、結局は自分のためにしてることだよ。 勝手に振舞ったって、大きな迷惑をかけなければ、それでいいんじゃないかねぇ」

「・・そうだよね」

俺はうなずきながら、残りのお茶を一気に飲む。

「ばあちゃん、ありがとう」

俺はゆっくりと席を立つ。

ばあちゃんはにっこりと微笑むと、俺を玄関まで見送ってくれた。

ありがとう。

時間は6時を過ぎている。

そのまま嫁の家に向かう。


なるほど、学校へ行くとなるとみんな早起きになるんだな。 

嫁も起きているようだ。

そんなことを俺は思いつつ、呼び鈴を押してみる。

「はーい」

嫁の声だ。

玄関のドアが開かれて、嫁が意外そうな顔を向ける。

「おはよう、パパさん。 どうしたの? 朝、忙しいんだけど・・」

嫁の嫌味的な言葉を聞きながらも、俺は中に入らせてもらった。


リビングへ行くと、嫁が子供たちの朝ご飯を用意していた。

マジか?

あの嫁が、朝ご飯を用意しているとは・・ありえねぇ。

何十年としたことなかっただろ。

俺は衝撃を受けた。


俺が少し呆けていると、嫁にせっつかれる。

「何か用なら、早くして! 学校があるんだから」

子どもたちはまだ寝ているようだ。

「あぁ、学校って面白そうだった?」

俺は聞いてみる。

「はぁ? 自分で勝手に行って確かめたら?」

嫁が朝食を用意しながら背中越しに言う。

やっぱ、こいつは上から目線だな。


あ、今思い出した!

金のことだ。

「嫁さん、あのさ、お金の問題はもうないだろ?」

俺がそういうと、少し動きが止まっていた。

「・・朝、忙しいんだから後でもいい?」

「いや、作業しながらでいいから聞け!」

続けて俺は言う。

「お前さぁ、金さえあれば何してもいいって言ってたよな?」

俺は話をしていて、昔のことを思いだした。

「・・・」

嫁は何も言わない。


「まぁ、それはいい。 俺は、金がない分、子育てはかなりしたよな。 子どもと遊ぶのだって、ほとんど俺だった。 まぁ、自分の子供だからどっちがやってもいいんだが・・って、俺何しに来たんだ?」

嫁は作業しつつ聞いていた・・と思う。

これじゃ、まるで俺って酔っ払いのおやじじゃないか!

あれ? 

いったい何しに来たんだっけ?

頭に浮かんだことを続けて言ってみた。

「まぁ、縁あって君と一緒になったわけだけど、今の状況を見るとこれって家族かって思うが、このままの位置でいいと思っている。 君が、あの芸能人ファンクラブに熱を上げていたような人は、俺にはいない。 だから好きなようにしてくれればいい。 でも、子供のことは頼むしかないと思う。 もし、俺が育てたら、どうなると思う?」

俺がそういうと、嫁は少し考えていた。


「・・子供たちがダメになるわね」

嫁がきっぱりという。

それは俺もそう思う。

こんな嫁でも、子供とは上手に接している。 

ただ、朝起きてこないのが最大の難点と自分の評価が高いこと、それに約束はすぐに反古にするし、何をしても自分が正しい、常に上から目線・・だんだんムカついてきたな。

俺は頭を振る。

そうじゃない。

俺のイメージとズレているから腹立たしいのだろう。

そうなんだ。 

それが気に入らないんだ。

でも、男の俺、いや俺だけでは子供は育てられないと思う。


「だろ?」

俺はそう口から言葉が出た。

ただ、子育てを放棄しようというのではない。

俺ではかたよってしまう。

って俺、本当に一体何しに来たのだろう?

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