第300話 あれこそが魔素を使う乗り物ですわ!



レアの後を追ってトーマスが追いかけてくる。

「レア様、失礼します。 こちらからも何名かご同行させたいと思いますが、よろしいですか?」

レアは立ち止まり、トーマスの顔を見る。

「当然ですわね。 よろしくってよ」

「ありがとうございます。 では、早速装甲車を用意させます」

トーマスがそういうとレアが断った。

「トーマス様、あのような乗り物は不要ですわ。 私たちは自分で移動した方が安全ですし速いですわ。 あ、それから空を飛んでいた戦闘機とかいう乗り物ですが、何の役にも立ちませんことよ」

レアはそういうと、髪を片手でパッと払いその場を後にした。


「は?」

トーマスは口を開けて呆けている。

また、なぜかわからないが、レアの前で話すと緊張していた。

いやいや、いつもこちらがドキドキしてしまう。

すべてを見透かされているような感じだ。

だが、それも後少しの辛抱だ。

大統領とも話はついている。

我らが大国は、再び世界を制するのだ。

新たな力、魔法力を持って忌々いまいましい奴等どもに正義の鉄槌てっついを下してやる。

だが、今はまだその時ではない。

もう少し、後少し・・トーマスはハンカチで額を拭きながら政務室へと戻って行った。


ホワイトハウス改の外へ出ると、装甲車が3台止まっていた。

車1台に5名ほどの人間が配置されているようだ。

建物の入り口の階段からゆっくりとレアが降りてくると、装甲車の横に整列して、一番前の女の人が一歩前へ出る。

レアに敬礼をして、挨拶する。

「レア様、出発準備が整いました。 ご同行、感謝いたします」

そう言って気を付けの姿勢を維持している。

レアにしてみれば、滑稽こっけいなものだが、相手の気持ちを軽く受け取るような人間ではない。

「ご苦労様ですね。 えっとお名前は?」

「ハッ! セーラと申します」

「ではセーラさん、その街まで案内してくださるかしら」

レアはそう言うと、セーラの顔をみつめる。

セーラは一瞬ドキッとした。

女性から見ても美しい顔立ち。

そして、まっすぐな視線。

一目ぼれをしそうな感じだ。

・・・・

一瞬ボーッとなっていたようだが、ハッと我に返り慌てて声をかける。


「レア様、それぞれの車に2名ずつ搭乗できますが、どうされますか?」

セーラが言う。

「私たちはこのまま移動した方が気軽ですので、ご心配なく」

レアが微笑みながら答える。 

このままの移動が安全だとは言わない。

「し、しかし・・了解しました」

セーラは口ごもるが、仕方ない。

「総員乗車!」

セーラはそう声をかけ、装甲車に搭乗した。


装甲車3台が出発し、その後をレアたちがついて行く。

城壁を出て加速していく。

レアたちはバックミラーにきちんと写っている。

速度を上げて、80マイル(時速約130キロ)くらいになっていた。

!!

レアたちは同じ位置で写っている。

セーラは言葉を失っていた。


「レア様、こんな速度では眠ってしまいます」

アウラがあくびをしながら話しかける。

「アウラ、仕方ないことですわよ。 あれだけフローラが教えても、魔核をこんな移動する装置に無駄に使うのですから。 そろそろ潮時かもしれませんわね」

レアは返答しながら何か考えているようだった。


城壁を出て40分くらい移動したところに街ができていた。

セーラはたちは装甲車の速度を上げていく。

150マイル(時速約240キロ)をメーターは指している。

魔法によって動力が格段に向上している。

装甲車の能力も今までとは比べ物にならないくらい頑丈に、強力になっている。

だが、レアたちの移動を見ていると、何だかこんな車なんか不要なようにも思える。

セーラ自身もレベルは25になっていた。

気づいていないが、装甲車よりは戦闘能力は高いだろう。

だが、今までの常識が邪魔をする。

装甲車に使われている魔核はレベル14。

オーガと遭遇すれば、即座に廃車になるだろうことは知りようもなかった。


少しして、街であろう城壁が見えてくる。

レアも気づいたようだ。

装甲車は速度を落とし、上部からセーラが身を乗り出してレアに言う。

「レア様。 あれが発見した街です」

セーラたちを先頭に街へ近づいて行く。

そんな中、上空に飛行船が飛来していた。

スムースに移動し、街の中へ降り立ったようだ。

レアはその飛行船を見ながら目を大きくした。

「まぁ・・あれこそが魔素を使う乗り物ですわ。 それにおそらく使われている魔核・・レベル30くらいありそうですわね。 いったいどこの錬金術師でしょうか。 さぞ高名な方なのでしょう。 素晴らしいですわ。 きっとワイバーンでも傷つけられないでしょうね」

レアの口から言葉が漏れていた。

セレネーたちも、うんうんとうなずき合っていた。

レアたちは、一瞬で魔素の流れを感じ、そこまでを読み取ったのだ。


セーラたちもまた、街に降りていく飛行船を見て思っていた。

「何だあの飛行船は? あんなものが動いているとは・・街の文明レベルもたかが知れているな」

装甲車の中では、笑い声が起こっていた。


◇◇

<アニム王国帝都>


アニム王国の魔核などを製造する作業室で、魔石を打っている年配の人がいる。

キーン・・

コーン・・

キーン・・・。

「いやぁ、アキラ様の打たれる音は実に素晴しいですな」

そう言いつつ近づいてくる帝都騎士団の中年の男がいた。

アキラ・・じいちゃんだ。

じいちゃんは、その男の方を向くと大きくくしゃみをした。

「ハ、ハ、ハ・・ハーックション!!」

「アキラ様、大丈夫ですか?」

男は心配そうに言う。

「いえいえ、大丈夫です。 誰か噂でもしておるんでしょ」

「はぁ・・・」

男はぼんやりと答える。


◇◇

<レアたち視点>


城壁の近くまで来ると、レアたちは歩く速度ほどになった。

セーラたちもゆっくりと移動している。

すぐに城壁の入口が見つかった。

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