第281話 お世話になった人を裏切りたくはない
「ギルドマスター、クイーンバハムートって何ですか?」
俺にはわからない。
ただ、さっきの話の中でその単語が出たときに雰囲気が変わったのは確認している。
「あぁ、そうだったね」
アニム王が答えてくれた。
・・・
聞けば、クイーンバハムートというのは古龍だという。
存在は確認されているが、接触したものはほとんどいない。
いや、いないと言ってもいいそうだ。
というのは、接触しようと訪れても会えなかったり、無礼なふるまいをした種族が滅んだこともあるという。
どこかで聞いたような話だな。
俺はそこでルナをチラっとみた。
ルナは下を向いて目を閉じている。
・・・
ね、寝ているのか?
さて、そのクイーンバハムートだが、直接は会えなくても交渉はできたようだ。
アニム王の世界では、どの種族とも不干渉で成立していたという。
ただ、誰もその姿を見たことはない。
そういえば、そんなことをアニム王の
何故、俺が選ばれたのかというと、フェニックスの羽を持っているからだそうだ。
なるほど。
そういうものかもしれない。
俺は黙って考えている。
「どうだろう、テツ。 引き受けてもらえるだろうか」
アニム王が静かに聞いてきた。
そして、続けて言う。
「テツ。 無理はしなくていいんだよ。 こちらからでも交渉役は出せるんだ。 ただ、ミランがテツなら何か違った変化があるのではないかと進言してくれてね。 私もそう思ったんだ。 すまない・・」
アニム王が申し訳なさそうに顔を下に向ける。
!
俺は恐縮してしまった。
「ア、アニム王、お顔をお上げください。 私でよければ行かせていただきます」
考えてもおそらく答えはでないだろう。
ならば、状況に任せた方がいいと思う。
俺は取りあえず返事だけをした。
それにこの世界。
本当に感謝している。
この世界を提供してくれたアニム王とその神様。
お返しとかそんなんじゃない。
・・・
やらせていただきます!!
そこまで考えると、俺はアニム王とミランを見つめた。
ルナがそこで話しかけてくる。
「テツよ。 クイーンバハムートは悪い奴ではない。 心配するようなことはないぞ」
皆がルナに注目。
その視線を受けてルナが答える。
「断っておくが、私では交渉にならないぞ」
そういうと後はまた黙って目を閉じていた。
俺はルナの言葉でホッとした。
いきなり攻撃を受けるような感じではないみたいだな。
そのことがわかっただけでもいい。
「テツ、直接会えなくてもいいのだよ。 ただ、行って我々が敵対する存在でないとわかってもらえれば、向こうも何もしないだろう」
アニム王が心配そうに言ってくれる。
続けてミランが言う。
「テツ君、すまないな。 ただ、前の不干渉交渉の時も、クイーンバハムートの居城か神殿らしきところに行って、敵対しないと祈りを
ミランが真剣な顔を俺に向ける。
何日経っても会えなかったのか。
どういうこと?
・・・
俺がすぐに返答できなかったのを、みんなは俺が悩んでいると思っていたようだ。
行くのは問題ないが、その会えないというのが少しひっかかっただけなのに。
「アニム王、私が行っても会えないかもしれません。 ですが、行くだけは行ってみます」
アニム王は複雑は表情をしつつ、俺に謝意を示してくれた。
「テツ、すまない」
ミランはすごく喜んでいる。
「テツ君、ありがとう。 それと後でギルドに来てくれ」
ミランはそういうと会議室から出て行った。
ルナとウルダも静かに席を立ち、退出する。
ルナはドアのところで軽く俺に手を振っていた。
俺も右手を挙げて、その姿を見送る。
「テツ、よろしく頼む。 それから騎士団のメサイアの件は、本当にありがとう。 王宮からも報酬を支払わせてくれよ。 また、メサイアを助けてくれた町だが、帝都が管轄することになったよ」
アニム王はそういうと、俺と握手を交わして政務に戻って行った。
時間は13時を過ぎている。
俺たちも会議室を出て、王宮の中を歩いていた。
フレイアが俺の横でクスクスと笑っている。
「どうしたんだ、フレイア?」
何がおかしいんだ?
「フフフ・・いや、テツは苦労性だと思ってね」
フレイアが言う。
「苦労性か・・」
俺はそうつぶやきながら考えてみた。
苦労性とは違うと思う。
それほど気は強くないが、嫌なことは嫌だと言えるようになった。
だからこそ社交性はなくなったが。
でも、お世話になった人を裏切ることはしたくない。
これは俺の性格だな。
アニム王には本当にお世話になっている。
それに、クイーンバハムートという、その響きに興味がある。
・・・
何にせよ、なるようにしかならない。
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