どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ

第268話 レベルを超える何か

キョウジは俺の横を通り過ぎる。

そして、両腕で何かを縛るような動きをした。

！！

俺の身体の周りに、ピアノ線のようなキラッと光る細い糸のようなものが見える。

俺は即座に抜刀してその線を切断。

スパン！！

「！　お前・・何なんだ？」

キョウジは驚いていた。

俺はそのままゆっくりと前のめりになりつつ、キョウジに向かってダッシュ！

ダッ！！

キョウジの心臓めがけて突きを繰り出す。

！！

何？

俺の初動の動きが読まれたのだろうか？

キョウジが少し揺らいだような気がした。

周りからは俺が消えて、キョウジの後ろに出たように見えるだろう。

その刹那の間に、俺は３度、キョウジの心臓付近を突いたはずだった。

キョウジの後ろから振り向いて俺は見る。

キョウジの左腕が肘の少し先から吹き飛んでいた。

身体の部分も、致命傷ではないが、えぐれている。

！！

俺は驚いてしまった！

これだけレベル差があるのに、決定打にならない。

俺が自惚（うぬぼ）れていたのか？　

いや、きっとそうだろう。

俺はそう思うと、すぐに構え直して突きを繰り出そうとした。

キョウジは、声を上げることもなく俺を見つめる。

「クッ、へへッ・・俺も焼きが回ったようだな。　お前何者だ？　迷わずに俺を殺ろうなんざ、俺と同じように何かが欠けてやがるな、まぁいい・・だがな」

キョウジはそういうと地面と上空に向けて何かを投げた。

俺も思わず目で追ってしまう。

直後、眩しい閃光が発生！

！！

閃光弾か！

そう思ったが遅かった。

目をやられた。

キョウジが移動しているのがわかるが、はっきりとはわからない。

・・・

遠ざかって行く。

魔法を放って追撃してもいいが、周りに被害が及ぶ。

やられた・・まさか逃げられるとは思わなかった。

それにあの男、逃げるのに何の迷いもなかった。

俺の完敗だ。

同じくらいのレベルなら俺は即殺されていただろうな。

俺はその場で考えていた。

目がだんだんと回復してくる。

・・・

フレイアが近寄ってきた。

「テツ、大丈夫か？」

「あぁ大丈夫だ。　しかし、逃がしてしまった・・」

俺は自分が許せなかった。

レベルが上がって完全に慢心していたようだ。

反省しよう。

「仕方ないさ・・」

フレイアは微笑みながら俺の背中にそっと手を添えてくれる。

俺は苦笑いしかできなかった。

さて、メサイアだが。

俺がメサイアの方を見ると騎士団の隊員たちが駆け寄っている。

隊員の一人が回復魔法をかけているようだった。

・・・

しばらくすると、メサイアが回復していた。

・・・・

「も、申し訳ない。　不甲斐ないところをお見せしてしまった・・」

メサイアが下を向いて涙ぐんでいる。

完全に負けていたからな。

相手にならない感じだった。

それにおそらく汚された、なんて思ってるんだろうな。

俺はそんなメサイアを見てきっぱりと言ってやった。

「メサイア。　戦闘中に相手に怒った時点で負けだぞ！」

！！

メサイアはハッとして顔を上げた。

「テツ殿・・」

・・・

「メサイア、生き残りの証人が１人いる。　それに女の人たちもいる。　後の処理を頼むぞ！」

俺がそういうとメサイアも即座に気持ちを切り替えたようだ。

俺も偉そうなことは言えない。

あのキョウジという男、基礎能力では俺よりも遥かに上だ。

俺ももっと地道に基礎を鍛えなければいけないな。

そんなことを考えながらメサイアを見ていた。

メサイアは部下たちに指示を出していた。

さすがは隊長クラスか。

即座に気持ちを切り替えられるようだ。

魔法で女の人たちを運ぶ籠（かご）みたいな入れ物を作っている。

１０人くらいは乗れそうなものだ。

それを３つ作っていた。

その間にカズヤのところへ近寄って行って何やら話している。

・・・

・・

カズヤは素直にメサイアに従っていた。

メサイアたちはワイバーンを呼び寄せて、女の人たちを籠（かご）に乗せる。

「テツ殿、フレイア殿。　本当にお世話になりました。　帝都に帰還いたします。　旅のご武運を」

メサイアはそういうと、ワイバーンに籠（かご）を持たせ舞い上がっていった。

カズヤも連行している。

俺たちはメサイアたちが小さくなるまで見送った。

「テツ・・メサイアは大丈夫だろうか？」

フレイアが聞いてくる。

「さぁ、わからないな」

俺はそう答えるとゆっくりと歩き始めた。

「テツは、厳しいんだが優しいんだかわからないな」

フレイアは俺と一緒に歩いてくれる。

時間は２２時前になっていた。

さて、今度こそ藤岡のところに行こう。

俺は周りを索敵してみる。

レベルの高い魔物はいないようだ。

やはりレベル２０程度の魔物がまばらにいる。

無視だな。

５分くらい移動したときだろうか。

大きな城壁が見えた。

あれ？　

この城壁って・・異世界人と接触した街にあるような城壁だよな。

でも、ここは藤岡のところからかなり離れているぞ。