第253話 帝都ホテル


フレイアが嬉しそうに見せてくれる。

回復薬は淡い緑色でほんのり光っている。

魔力回復薬は透き通るような赤色だ。

きれいだな。

そう思いつつ、俺はフレイアにねぎらいの言葉をかける。

「お疲れ様だな、フレイア。 それにしてもたくさん作ったな」

フレイアはニコニコしてうなずくと、アイテムボックスに収納していった。

・・・

その嬉しそうな姿、俺には妙に悲壮感が伴うが大丈夫か?

さて、そろそろお昼なのでどこかで食べようかと誘ってみる。


毎回俺の野菜炒めでは嫌だろう。

俺は別にいいのだが。

すると、フレイアが何かを思い出したらしく笑顔で話しかけてくる。

「テツ、ルナ様たちから聞いたのだけれど、帝都ホテルの食べるところがおいしいらしいのよ!」

!!

あそこか!

嫁たちが、初めに宿泊したところ。

そういえば、凛が食事がおいしかったとか言ってたな。

俺はそんなことを思い出していた。

「じゃあ、そこへ行ってみようか」

フレイアは大きくうなずく。

フレイアは出かける前に、部屋や自分を魔法できれいにしている。

結構マメだな。

俺たちは家を出て帝都ホテルへと向かう。


少し歩くと帝都ホテルの前に来た。

とても便利な場所だよな。

改めて思う。

俺達の住んでいるところは、帝都の中心部に位置している。

だが、騒がしい雰囲気はない。

自然の中で生活している感じだ。

街の特徴なのだろう。


お店や宿泊所などの商業施設は集中していて便利だし。

それにギルドもあるし、飛行船の発着場もある。

縦と横を上手に使っているよな。

俺はそんなことを考えながら、帝都ホテルに入っていった。


帝都ホテルの扉がゆっくり開く。

中に入って行くと、係の人が歩いて近寄ってくる。

「ようこそ帝都ホテルへ。 どういったご用件でしょうか?」

落ち着いた口調で聞いてくる。

俺たちはおいしい食事がしたいと伝える。

係の人は、微笑みながらうなずいて案内してくれた。

受付カウンターを横切って、通路を奥の方へ歩いて行く。

3階までの階段があるが、登らずに横の通路を使う。


通路から中庭が見える。

とても整然とした、きれいな庭園だ。

それを見ながら通路を進むと食事をする場所についた。

係の人がお辞儀して、どうぞごゆっくりと言って元の通路を歩いて行く。

俺はその背中を見ながら、完成された動きだよなぁと思った。


さて、食事をする場所はラピット亭のような雰囲気ではない。

だからといって、高級な感じのするお店でもない。

2人くらいが横になって入れるくらいの入口がある。

中に入ってみると、女の人が近寄って来て、

「いらっしゃいませ」と、落ち着いた感じで丁寧に挨拶をしてくれた。

ラピット亭のような元気な挨拶ではないが、品がある。


俺たちはお昼を食べたいと伝えると、ライセンスカードの提示を求められた。

ライセンスカードをボードパネルに重ねる。

係の人は、セキュリティのために申し訳ありませんというが、別にどうでもいい。

「テツ様とフレイア様ですね。 ありがとうございます。 こちらへどうぞ」

そういって案内された。


結構、人が入っているんだなと思った。

俺たちは丸いテーブルの席につき、係の人は帰っていく。

交代で違う係の人が飲み物を持って来てテーブルに置いてくれる。

そして注文を聞く。

「いらっしゃいませ。 ご注文がお決まりでしたら、伺います」

丁寧に言われる。

俺はフレイアを見て、何かお勧めがあるのかと聞くと首を横に振ってわからないという。

なんだ・・ただルナさんたちの話からの思いつきだったのか。

俺は店員においしいお昼を食べたいと伝えると、今日のお勧めランチを案内された。

それを二人前注文する。


食事が来るのを待ちながらフレイアに話してみる。

俺はこんな高級な雰囲気でお昼をするのは、公務員時代でも経験がない。

少し緊張するがフレイアは平気みたいだな。

「フレイア、ルナさんたちってこんなところで毎回食べてるのかな?」

「さぁ、わからないわ。 でも、ここがおいしいって言ってたから・・」

「そうか・・確かにおいしそうだよな」

俺は店の中をゆっくりと見渡しながらつぶやいてみた。

「そうね」

フレイアもうなずく。


店内を見渡しながら、フト思ったことがあった。

「フレイア・・この世界で、どこか行ってみたい場所とかある?」

いつも俺の都合でフレイアを連れ回していたからな。

特に急ぐこともないので、フレイアの行きたい場所があれば優先しようかと考えていた。

フレイアが顎に指を当てて、少し考えている。

「う~ん・・特にないわね。 というか、この世界の場所とかよくわからないし・・」

「そ、そうだよな。 地球のこと知ってるわけないよな」

俺ってバカか。

「それに、テツが行きたいところがあれば、どこでもついて行くわよ」

!!

フレイアさん!

それって、俺の愛人になるってことですか?

いや、しかし・・ハイエルフは狂暴だしな。

でも、こんな美人は他にはいない。

いや、いたな・・ルナやウルダ。

ちょっとアホだが、シルビアなんかもアリだが。

俺の頭の中は妄想一色だ。

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