第244話 日常の夜


俺は嫁の家を後にして自分の家に向かう。

ん? 

横を見ると優の家は明かりがついていた。

よし、立ち寄って行こう。

時間は20時前だ。

少し遅いが、いいだろう。


優の家の呼び鈴を押す。

「はーい」

女の人の声だ。

レイアだとわかっているが、何か新鮮というか・・ま、いっか。


ドアが開かれて、レイアが出迎えてくれる。

「あ、テツ。 どうぞ」

中へ入れてくれた。

リビングへ案内される。

優がテーブルに肘をかけ、椅子に座っていた。

どこかのおっさんの姿だが、何か違和感を覚えるな。

俺もそのテーブルに座らせてもらう。

レイアが何か飲みますか? と聞いてくれたので、つい条件反射でお勧めをお願いしますと答えた。

レイアに笑われる。


「おやじさん、どうしたんだ?」

なんか、大人になった感じがするぞ。

「あぁ、優がママたちを支援したんだってな」

嫁たちのレベルのことだ。

「うん。 あまりにも低かったから・・」

優が苦笑いしながら答える。


「いいことをしたな」

俺はそう言ってみる。

優は黙って聞いている。

「そうだ、優。 地上との連絡船が出来たの知ってるよな?」

「うん」

「もう、地上へは行った?」

「いや、まだだけど・・」

「すまん、優。 俺の質問が悪かったな。 ママたちのレベル上げに付き合っていたのに・・そんな時間あるわけないよな」

俺は反省した。

そして続けて言う。

「それより、この帝都にスーパーエイトができるかもしれないぞ」

俺はギルマスとのやり取りと地上でのことを伝えてみた。

・・・・

・・・

「そうなんだ・・それは便利になるね」

優がそう答える。

レイアがお茶を運んできてくれた。


俺はお茶を飲みながら、アイテムボックスからスイーツをいくつか取り出した。

「レイア、これフレイアもおいしいって言ってたチーズケーキ。 それと、これが和菓子といって・・」

・・・・

俺は軽く説明しながら10個ほどスイーツを出してみた。

お茶を一気にいただいて、俺は優の家を後にする。

新婚さん? の邪魔をしても悪いしな。


俺も家に帰ろう。

家に入って明かりをつける。

誰もいない。

たまにこんな静かな夜があってもいいだろう。

身体を魔法できれいにして、俺はベッドに入った。


いろいろと考えてみる。

まずはお金だ。

これだけのお金が手に入ってしまうとは思わなかった。

正直、食べるのに使うお金なんてそれほどでもない。

俺にはそれくらいしか使うところがない。

武器もじいちゃんがいる。

ただ、何となく嫁に渡すのが嫌なだけだな。

これは気持ちの問題だろう。


まぁ、それはいいとして、子供たちの生活費もほとんど要らない世界になったからな。

ん? お金の問題はこれで完全解決じゃないのか?

今まであれほど偉そうに言ってた嫁・・どうする気だ?

いや、奴のことだ。

普通になかったように接してくるだろうか?

う~ん・・どうでもいいといえば、どうでもいい。

お金のモノサシが必要なくなったし、相手にしなくてもいい。

既に絶対零度だ。

ただ、子供に対する俺の心理的な問題だけだな。


後は、俺がどうしたいかだが・・。

そんなことを思っていると、知らない間に寝てしまったようだ。

・・・・

・・

いい匂いがする。

光が差し込んでいる。

朝になっていたようだ。

時間は5時前。

この匂い・・フレイアの卵焼きだな。


俺は複雑な気持ちになる。

フレイアは愛人でもないし、彼女でもない。

ただ好意はあると言えばある。

フレイアも俺のことは嫌ではないだろう。

浮気心というものだろうか。

だがなぁ・・今までの慣習が身についている。

ただ、エルフは狂暴かもしれない。

俺って女の人を見る目がないからな。

嫁も最初はいいかと思ったが、中身は俺に対しては鬼だった。

・・・

ま、今となってはどうでもいいことだが。


俺はリビングへ行ってみた。

「おはよう、テツ」

フレイアが元気よく挨拶してくれる。

「あ、おはよう、フレイア」

「昨日は、スイーツありがとう。 ルナ様やシルビアがお礼を言っておいてくれだって」

フレイアがニコニコしながら言ってくる。

・・・

俺は目が完全に覚めた。


「フレイア・・昨日のスイーツ・・もしかして全部食べたのか?」

「ええ、みんなでいただいたわよ。 大好評でおいしかったわ」

・・・

そうですか。

あの量を・・ねぇ。

大丈夫か?


「フレイア、今日は何か予定とかあるの?」

俺はフレイアの焼いてくれた卵焼きをいただきながら聞いてみた。

「いただきます」

「いや、特にないけど・・どうしたの?」

フレイアも一緒に食べている。

「んぐっ・・」

卵焼きが喉に詰まったようだ。

コ、コーヒー・・。

急いで何か飲み物を探した。

・・・

ない。

し、死ぬ。

冷蔵庫に水が入ってたはずだが・・く、苦しい。

俺はバタバタとしながら冷蔵庫を開けて、ペットボトルに入っている水を滝飲みした。


ぷはぁ。

死ぬかと思った。

魔物じゃなく、食べ物を詰まらせて死んだら最悪だな。

いったい何のためにレベルを上げたのかわからなくなる。

俺はそんなことを思っていた。

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