第100話 すみません、フレイアさん
「え、えぇ・・私は知っているというか、知識としてあっただけです。 この星では魔法は存在しないのです。 ただ、伝説や想像上の物語の中にあったりしたものですから、知っていたのです」
俺はとりあえずそう言った。
「そうなのか? ま、なんでもいいさ。 それよりテツはこれからどうするのだ?」
フレイアは気にする様子もなくスッと立ち上がる。
軽いなぁ、この人。
「私は、レベル上げに来ただけなので、これから家に帰るつもりです」
「そうか・・」
フレイアは一度下を向き、ジッと俺を見つめている。
・・・
・・
なるほど。
アニム王から紹介されただけで、後のことを考えていないんだな。
行く先がないわけだ。
フレイアさん、その目って・・私も連れて行けって目ですよね?
俺は少し考える。
・・・
アニム王の紹介だ、念話で確認もした。
人物は問題ないだろう。
それに俺の命の恩人だ。
全く知らない世界に一人で放り出されている。
これが逆の立場ならどうだ?
俺も誰かにすがりつきたくなるだろう。
だがなぁ、レベル上げに来ていきなり全くわけのわからない女の人を連れて帰ったらどうか?
・・・
嫁の反応はどうでもいい。
俺の家族は受け入れれるだろうか?
それにエルフだ。
ばあちゃんなんて、エルフ自体知らないんじゃないか?
俺の頭でいろいろと考えが巡るが、答えは出ない。
・・・
まぁ、なるようになるか。
俺は軽くうなずくと、フレイアを見る。
フレイアはまだジッと俺を見つめていた。
「フレイアさん、俺と一緒に来ますか?」
「いいのか?」
即答だな、おい!
フレイアは目を大きくして両手を前にして祈るように合わせている。
いいのかってねぇ・・来る気満々でしょ!
耳がピン! となってますよ。
エルフって、うれしいと耳が反応するのかな?
エルフかぁ・・俺の近所・・ダメだよな。
というか、地球上のどこでもダメなんじゃないか?
目立ちすぎる。
耳を隠しても、この姿・・間違いなく美女だ。
しかも、とびきりの。
連れて帰ったら間違いなく
なんであいつだけ、どこで出会ったんだとか。
エルフの捜索合戦になるかもしれない。
う~ん・・どうしよう。
「どうしたのだ、テツ?」
「いえ、何と言うか、フレイアさんがあまりにも美人なんで、連れて帰ったらなんて言われるんだろうって考えてました」
俺は素直に答える。
フレイアが小刻みに震えていた。
「な、な、何を言っている!! 美人などと・・貴様、エルフをバカにしてるのか?」
何かフレイアは少し怒っているようだ。
何だ?
だがフレイアさん、その仕草自体も萌えるんですけど。
俺はそんなフレイアを見ながら、さらに言葉を続ける。
「いえ、フレイアさん。 この星の住人は、エルフに対する免疫がないのですよ」
「免疫だと? 何だそれは?」
「えっとですね、美人に対して無防備というか、大好きというか・・」
俺がそう説明すると、フレイアの動きが止まる。
あれ?
俺の言い方が悪かったのかな。
明らかにフレイアに落ち着きがない。
「き、貴様! やはりエルフ族をバカにしてるな! アニムのやつ・・変なのを紹介しやがって!!」
フレイアがその場でウロウロし出す。
俺は慌てて言葉を出す。
「フレイアさん、そうではないのです。 フレイアさんの基準はどうかわかりませんが、少なくとも私にはフレイアさんはとても美人に見えます。 それは間違いないのです」
どうやら俺のその言葉が地雷だったようだ。
!!
フレイアがいきなり剣を抜いた。
「き、貴様ぁ!」
耳と顔は真っ赤になってるぞ。
「ちょ、ちょっと待ってく・・」
俺がそこまで言葉を出した時だ。
フレイアの
振り下ろしたと思ったら、連続の突きを繰り出してくる。
俺も自動回復でかなり回復できたみたいだった。
初撃を避けることはできた。
だが、避けるのに精いっぱいだ。
このエルフ、俺を殺す気か?
とても照れてやっているとは思えない。
やばい。
!!
俺の前に迫って来た細剣を、抜刀と同時にはじいた。
ギン!
「「あっ!」」
どうやら、フレイアのレイピアが折れたようだ。
さすがじいちゃんの絶対切断。
って、感心してる場合じゃないな。
フレイアの動きが止まっている。
「すみませんフレイアさん、つい・・」
俺はとりあえず謝る。
何で俺が謝らなきゃいけないんだ?
「私の剣が・・折れた・・」
相当ショックのようだ。
フレイアはレイピアを両手で持ちつつ、その場に膝をつく。
俺はその姿を見ていると、ついつい言ってしまった。
「フレイアさん・・私の父が錬金術士ですので、剣の修理を頼んでみますよ」
フレイアの顔がパッと明るくなった。
「ほんとうか、テツ? ありがとう!!」
フレイアはいきなり俺の両手を握ってきて、ブンブンと振り回す。
「い、いえいえ、こちらこそすみません」
俺はそう言いつつ、折れたレイピアを拾ってフレイアに手渡す。
フレイアはアイテムボックスに収納したようだ。
「フレイアさん、本当にすみません」
「いや、いいのだ。 私の方こそ困惑してしまって申し訳ない」
「でも、フレイアさん・・本当に美人なんですからね」
!!
「ま、まだ言うか!!」
今度は軽く殴られた。
ミノタウロスの魔石を回収して帰路につく。
移動しながら、俺はエルフのことをいろいろ聞いた。
エルフは女系一族らしく、男は生まれないという。
交配時期がくれば、契約したりして種を探すのだそうだ。
各個人で選んだりもするが、精霊の選別を受けないといけないという。
たまに駆け落ちをして、ハーフエルフが生まれたりするそうだが、エルフとしての能力はほぼ失われてしまい、精霊の加護もなくなるという。
なんかイメージと違うな。
俺はそんなことを思いながら移動する。
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