第67話 ヒロキ:テツとの遭遇・・ん? 誰か歩いて来ているぞ


時間は7時を過ぎていた。

下ッパーズの連中が家から出てくる。

「「「おはようございます、ヒロキさん」」」

みんなから挨拶されると、ヒロキはもう支部の指示に従わなくていいことを伝える。

みんなの顔がほころんでいた。

!!

ホッとしていると、衝撃音が聞こえてくる。


ドッゴォーーーーーーーン!


建物が壊れる音だ。

だが、近くではない。

ユウジもレベル4になっていたので、普通よりも身体能力は向上していた。

下ッパーズはレベル2が2人とレベル3が1人だ。

「お前たちはここに居ろ。 様子を見てくる」

ヒロキはそういうと、ユウジとともに音の方へと向かっていった。

ユウジの速度に合わせるのでそれほど速くはない。

ちょうど原付程度の速度だろう。


音の近くまで来ると土埃が舞っていた。

ゴブリンが結構いる。

ヒロキがその数えていると、ユウジがヒロキの腕を握ってくる。

ん、なんだ?

!!

ユウジの方を向くとともに、その目線の先に豚の顔をした巨体があった。

ヒロキは言葉を失い、身体が硬直。

そして、ユウジの口から言葉がこぼれた。

「ヒロキはん・・あれ・・オークっすよ」

こちらにはまだ気づいていない。


きゃぁああ!

うわぁああ!!

土埃の中で叫び声がこだましていた。

そのおかげで助かったというべきだろう。

魔物の注意が叫び声の方へと傾いていく。

オークは片手で車を持ち上げて、まるで小石を投げるように投げていた。

家などひとたまりもない。

車がぶつかり崩れる家。

車が爆発して燃える家。

少し目線を遠くへ移せば、車が空から降ってきていた。


ユウジは目の前のオークに注目していたが、ヒロキはその奥に見える車の落下が衝撃だった。

上空を見ると、羽の生えた灰色の魔物が飛んでいる。

どうやらガーゴイルもいるようだ。

まだここら辺りには1匹が見えるだけだが、遠くの方ではカラスの群れのようなものが、上下に動いていた。

「ユウジ・・撤退するぞ」

小声でヒロキは言うとユウジもうなずく。

そっと距離を取り、静かにその場から離れた。

オークたちには気づかれていない。


ヒロキ達は下ッパーズのところまで戻ってくると、この辺りは危険だと伝える。

即座にみんなで一緒に逃げることにした。

しかし、一体どこに逃げればいいんだ?

ヒロキ達の逃避行が始まった。

・・・

思い出した!

そういえば、海の方面では魔物との遭遇はなかったような気がする。

ヒロキは海伝いに移動すれば、少しは大丈夫だろうと考えた。

「お前たち、海伝いに明石の方へ向かおう」

ヒロキはそう言った。

「明石っすか・・」

「そうだ、明石だ。 それで海を渡ろうと思う」

そう言うとともに、ユウジと初めに魔物と遭遇した時に移動した浜公園付近。

魔物が少なかったような気がするとも説明。

ヒロキは海を渡れば凶悪な魔物と遭遇しにくいんじゃないかと考えていた。

その説明を聞き、全員なるほどと納得。

それにみんな、ヒロキがいれば大丈夫だろうという、妙な安心感があった。


だが、明石大橋までは20キロくらいある。

下ッパーズの動きに合わせなきゃいけないだろうし、魔物との遭遇は避けたい。

どれくらいで到着できるかわからないが、とにかく目標は明石大橋だ。


兵庫でも魔物が溢れ、行政機関が緊急事態を発動。

だが、電気などを使ったインフラが役に立たない。

自分達の足で連絡を取りつつ対処していた。

市街地などでは、警察や自衛隊の出動などもあるがほとんど役に立たない。

レベル3程度のゴブリンクラスなら、何とか対処できる程度だった。

拳銃やライフル程度では、ワーウルフなどにはかすり傷程度しか与えれない。

おまけにオークやガーゴイルなどが溢れている。

・・・

しかし、さすがと言うべきか。

治安部隊は魔物に対する処理もだんだんと慣れて来るが、未だに自分たちにレベルやステータス画面があることが理解できていなかった。

そして、結果は見えていた。

戦車を市街地で使用するわけにもいかない。

その今までの常識が状況悪化に拍車をかける。

おそらく戦車数台でオークを足止めできる程度だろう。

オーク:レベル16

ガーゴイル:レベル18

・・・・・

・・・

・・

ヒロキ達は魔物たちの目をかいくぐりながら移動。

当然ながら移動はかなりしんどかった。


たった20キロの距離だったが、ほぼ1日かかってしまった。

ようやく舞子駅に到着し、明石大橋へと登って行く。

来る途中、ヒロキ達はレベルをそれぞれ上げていた。

ゴブリンなどを見つけると倒したりした。

後は・・人だ。

魔物に襲われて瀕死の状態の人が大半を占めた。


明石大橋に到着した時には、

ヒロキ:レベル9(盗賊)

ユウジ:レベル7(盗賊)

下ッパーズ:レベル5×2、レベル6×1(盗賊)

全員が盗賊の職になっていた。

レベルが5以上になり、全員普通の人間と思われる以上の身体能力を獲得していた。


ヒロキ達は明石大橋の高速バス乗り場、舞子の停留所にいた。

「ヒロキはん、どうにかここまで来れましたね」

ユウジはそう言いつつも、かなり疲れていた。

ヒロキも下ッパーズたちも疲れていた。

だが、これで少しは落ち着ける。

みんな安心感を得られただろう。

舞子の停留所で少し休憩だ。


「それにしても魔物に見つからないように移動するのは、かなりしんどかったな」

ヒロキはユウジに言った。

「ほんまにしんどかったですね。 でも、経験値をかなり稼げましたし、レベルも上がりました。 今ならあの大きな犬も倒せるんちゃいますか?」

ユウジの言葉を聞きながら、ヒロキはみんなを眺めてペットボトルのお茶を飲む。

「ユウジ、調子のいい時こそ気を引き締めなきゃいけない。 それこそ初心に返るだ。 死ねば終わりだ。 自分達以外の経験値になる」

ヒロキがそういうと、ユウジも一応はうなずく。

だが、自分の身体能力を考えると、誰でも自我肥大するだろう。


ヒロキは何気なく空を見上げた。

雲がほとんどないな。

目線を明石大橋の方へ移すと、淡路島方向から歩いてくる人が見える。

ん?

ヒロキ達と同じ車線だった。


テツが歩いて来ていた。

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