第58話 ヒロキ:テツとの遭遇まで28時間前・・一体、何だこれは?


テツがステータス画面に気づき、アニム王が転移してきた日。


◇◇◇


時間は1時頃だろう。

薄暗い部屋で一人の影が立ち上がる。

服を静かに身に着けているようだ。

「・・ヒロキ・・もう帰るの?」

甘くささやくような感じの声がする。

「あぁ、ごめん。 起こしたね。 ちょっと明日、いや今日か・・仕事早いから帰るよ」

ヒロキと呼ばれる男は優しく答え、そっとタオルケットを女にかけてやった。

丁寧に頬にキスをすると、そのまま部屋を出て行く。

女はまたすぐに眠りについたようだ。

女が眠りに落ちるの見て時間を確認。

「この時間なら、やっぱネットカフェだな」

ヒロキはシャワーを浴びたくなっていた。

女の家でシャワーを借りてもよかったが外の方が落ち着く。

静かに部屋のドアを開けて出て行く。

ドアはオートロックで閉じられた。


ヒロキは少し移動して行きつけのネットカフェに入る。

暇な時や自分1人になりたい時に利用していた。

「いらっしゃいませ~!」

ヒロキは店内に入ると、会員証を見せシャワーの鍵を借りる。

サッとシャワーを浴び終わり、PCの前でコーヒーを飲んでいた。

「・・マジか・・」

「・・そう思うやろ? でも、ホンマなんやって・・」

横のブースの声がヒロキの耳に聞こえる。

ヲタどもが何をやってんだか。

ヒロキはそう思い、ソファーに深く座り直す。

違うブースからも同じような言葉が聞こえる。

「・・やろ・・ほんまやろ、夢ちゃうやろ・・」

「・・俺ら、異世界に転生したんかいな?」

少し大きな声が聞こえた。

「・・異世界?」

ヒロキは軽く聞き流し、ヘッドフォンをつけようとした。


「・・自分も確認してみぃ、ステータスオープンいうて・・」

1人の男の声が明確にヒロキの耳に届く。

1つのブースを数人で使ってるみたいだ。

はぁ?

ったく・・夜中に入ると、変なのが多いな。

ヒロキはそう思いつつも、何だ? ステータスオープンって・・。

そう思った瞬間、目の前にステータス画面が現れた。

「うわあ!!」

思わず声が出た。

急いで椅子の上で膝を抱え丸くなる。

別に焦らなくてもいいのだが、条件反射だな。


な、なんだこれは?

俺の目がおかしくなったのか?

半透明の板のようなものが空中に見える。

・・・

そういえば、横の奴らが言ってたな。

これを確認しろってことか。

ゲームか?

しかし、夢じゃないよな。

一応ほっぺをつねってみた。

・・痛いな。

夢じゃないらしい。

ヒロキはゆっくりと手を伸ばし、半透明の板を触れてみる。

トントン。

!!

触れられるぞ!

確かに何かあるようだ。

ん?

それによく見ると文字が表示されていた。


これはなんだ?

画面には自分の名前が表示されている。

ヒロキ

レベル4

「俺の名前・・それにレベル4って・・なんだこれ? ゲームじゃねぇか・・」

大人になり、あまりゲームとかをしないヒロキはよくわからなかったようだ。

ただ、学生時代にはハマったりもしていたが。

ヒロキは耳を澄まして横の会話を盗み聞きしてみる。

「・・うっわ、俺なんてレベル2やて・・マジかいな・・」

「俺も・・」

こっちの方の奴らも同じようなことを言っている。


真夜中だがヒロキはユウジに電話をする。

『・・あ、こんばんは、ヒロキはん。 どうしはったんすか?』

『ああ、ユウジか。 すまないな、真夜中に・・』

『いや、エエッすよ。 で、何かありました?』

ユウジと呼ばれる男は軽く答えていた。

『ユウジ、今から会えないか。 少し、確認してもらいたいものがある』

ヒロキはやや早口になっていたようだ。

『そりゃ、エエッすけど・・また、何ぞヤバいもんでも、連合につかまされたんでっか?』

『違うよ。 じゃあ、いつものファミレスで待ってる。 頼むよ』

そういうとヒロキはネットカフェを出て、ファミレスに向かう。


「ありがとうございました~!」


通称、関西連合。

いわゆる反社会勢力の団体だ。

いろんな支部が集まって連合を作っている。

自分たちの縄張りを決めて、それぞれで争わないように連合を組んだ組織。

その1つの支部の使い走りのような位置にいるのがヒロキのグループだ。

ヒロキも、そろそろ普通に生きていこうと思っているが、なかなか抜け出せないでいる。


ヒロキは学生時代、有名進学校の生徒だった。

あまり勉強しなくても、そこそこの位置は確保していた。

でも、何かそんな生活がつまらなくなり、家を飛び出して今に至っている。


「いらっしゃいませ~!」


ファミレスの店員に迎えられ、席へとヒロキは案内される。

席に座りフリードリンクを頼むと、コーヒーを取りに行く。

席に戻ってきて、コーヒーを飲んでいたらユージがやってきた。

ヒロキは軽く手をあげ、ユウジを招く。

「ユウジ、すまないな。 こんな時間に呼び出して・・」

ヒロキは本気でそう思っていた。

「いえいえ、問題ないっすよ。 で、何すか、確認して欲しいもんというのは・・」

ユウジはヒロキの前に座り、聞いてくる。


「ユウジって、異世界転生とかラノベとか好きだったよな?」

「ええ、むっちゃ詳しいっすよ。 どうしはったんですか、ヒロキはん・・目覚めはったんですか?」

ユウジは少し驚いたような目をしてヒロキを見る。

「あぁそうだ。 ユウジ・・

ヒロキは力強く言った。

真面目に答えるヒロキに、ユウジは言葉を失う。

「・・・・」

「ユージ・・ステータスオープンって言ってみろ」

「え? 何ですかヒロキはん、いきなり・・ステータスオープンですか?」

!!

「うわあ! びっくりしたぁ・・・なんなんすか、これ・・」

ユウジの眼前に半透明の膜が出現したようだ。

ヒロキはその反応を真剣な眼差しで見つめている。

ユウジはビクッと身体をのけ反らせた。

やや声が大きかったようだが、誰も気にしていない。

ヒロキはユウジの反応を見て確信する。

夢ではないようだと。


「驚いたかユウジ。 俺も驚いたがよくわからない。 で、ユウジを呼んだわけだ」

ヒロキはユウジを見つめて言う。

「ヒロキはん・・ほんまっすか? これって、異世界もんですよ。 いやほんま、異世界が転生してきたんすね~」

ユウジはそうつぶやきながら、早速画面をタッチしていた。

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