第47話 俺はいったいどうしたんだ?


まだまだ颯の実験は続くみたいだ。

俺はそれを横目に椅子に座って目を閉じた。

ばあちゃんは大丈夫かい? と心配してくれる。

ありがとう。

それじゃ、遠慮なく少しこうやって椅子で休憩させてもらいますと俺は返答。

ステータス画面を開き、アニム王のところをタッチして呼び出してみる。

俺は目を軽く閉じてアニム王と念話をしてみた。


『アニム王・・テツです』

アニム王からはすぐに返事があった。

『やぁ、テツ。 少し待っててもらえるかね』

『あ、はい』

俺はそのまま待っていた。

10秒くらい経過しただろうか・・アニム王が呼びかけてくる。

『お待たせしたね、すまない。 で、何かな?』

『はい・・あ、いえ、アニム王、先に伺いたいのですが何をされていたのですか?』

『あぁ、魔物を倒していたんだよ。 少しレベルの高い魔物がいてね』

アニム王は軽く答えてくれる。


俺はバカか!

そういえば、アニム王のいる場所すら聞いてなかったじゃないか。


『すみません、アニム王。 先ほどは一方的に聞いてばかりでした。 いや、今も聞いてばかりですね。 それで、もう大丈夫なのですか』

『あぁ、問題ないよ、テツ。 で、何だったかな』

アニム王は嫌がるでもなく気さくに答えてくれる。

『アニム王は、今どこにおられるのですか。 お会いすることはできますか』

俺は聞きたいことがあり過ぎて、何から話してよいかわからない。

『ありがとう。 私もテツと会いたいとは思うのだが、当分はこの付近から離れることはできそうにないのだよ。 場所だがね、先ほどまでは新宿というところにいたのだが、今は渋谷だね』

アニム王、地名よく知ってるな。

俺は聞きながらそう思った。

『そうですか。 それにしてもアニム王、よく場所の名称をご存知ですね』

『マップに表示されるからね』

アニム王は即答する。

そうなんだ・・って、マップに地名なんて出てたっけ?

まぁいい。


『アニム王、なぜ動けないのですか』

俺は不思議に思ったことをたずねてみる。

『ここの場所なんだが、あまりにも人が密集している。 先ほども話したが、単一魔素が多いとレベルの高い魔物が現れる。 レベル40を超えると、災害級と呼ばれる魔物だ。 それに近い魔物が現れている。 私の転移でこうなってしまった以上、放置しておくわけにもいくまい。 とはいえ、偽善だがね』

アニム王が自嘲気味に言う。

『偽善? どういうことでしょうか』

俺には意味がわからなかった。

アニム王は一呼吸おいて答える。

『おそらく、この星はこういった人口が密集している地域が多くあるのではないのかな? そういったところでは災害級の魔物があふれているだろう。 私一人ではどうしようもない。 だが、せめて目の前のところだけでも排除しておこうと思っているわけだ。 なんの役にも立ちそうにないが・・』

!!

俺は即座に答えた。

『アニム王、そんなことはありません。 決して偽善ではありません。 私は、本当にこのシステムのおかげで、生まれて初めて生きがいを感じているのです。 すべての生命に限りなく平等なシステムだと思います。 その行動が評価されていますから。 ただ、善悪の価値観は関係しないようですが、それでも素晴らしいシステムだと思います』

俺は珍しく饒舌じょうぜつになり、そして続ける。

『そんなシステムを私たちの星が選んだのだと思います。 私はそんな選択をした星に感謝していますし、提供してくれたアニム王の転移にも感謝しています。 ですから、アニム王が罪悪感を感じることだけは、なさらないようにしてください』

いったい、どうしたんだ俺。

何を言っているんだ?

それに、このアニム王の前では素直になってしまう。

アニム王のスキルなのか?

いや、それとは関係なくこの人物には理由などいらない信頼感がある。

何故だ?


見たこともない人なのに、何なのだろうこの感覚は。

まるで神に対する畏敬の念というか、崇拝というか・・俺って、ヤバいのか?

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