第2話 レベルっていいな
家の外も薄明るくなってきている。
俺は窓に近寄りカーテンの隙間から外を覗いてみる。
ん?
誰か歩いている。
こんな時間に家の近くを歩いている人なんて、今までいなかったぞ。
俺だけがウォーキングしていたくらいだ。
人?
尻尾?
コスプレ?
まさかこんな時間に…イベントの帰りだろうか?
!
手元でキラッと何かが光る。
刃物らしきものを持っているようだ。
変態?
まさかの・・いきなりの魔物徘徊か?
周りに人はいない。
着ぐるみでなければ魔物だろうか。
俺はそう思いながらカーテンの隙間から覗いていた。
こんなのがウロウロしていたら、やばいんじゃないか?
しかし、まだ早い時間帯だからかそれほど騒がしい感じはない。
何か確認できるものがあればよいのだが・・。
ピッ!
相手の頭のところに何やら表示が表れた。
Lv:3
ロンリーウルフ
うわ!
なっ・・何か見える。
・・・
なるほど、どうやら相手のレベルと名称がわかるようだ。
探索のスキルかな。
これはありがたい。
う~ん・・まぁ、詳細は後回しだ。
とにかくレベル的には大丈夫のはずだ。
だが、人間ではない魔物・・だろ?
それに敵じゃないかもしれないし・・どうしよう。
って、あまりにも適応し過ぎだろう、俺。
だが、迷っている場合じゃなさそうだしな。
こんな時って遅れれば遅れるほど取り返しがつかなくなる気がする。
よし!
覚悟を決めたら、少し落ち着いてきた。
俺は玄関からそっと外へ出てみる。
手には風呂場にあった衣類乾燥なんかに使う、細い金属の棒を持っている。
なるほど・・これが盗賊か。
足音がものすごく静かだ。
扉を開けるときにも音がなかったような気がする。
俺は犬のような相手に近づいて行く。
どうやら相手は気づいていないようだ。
3メートルくらいにまで近づいた。
ドキドキする。
相手はまだ感知できてないのか?
しかし、本当に人じゃない・・よな?
人じゃないが、敵でなかったらどうなんだろう。
でも、刃物を持っているし。
・・・
俺の頭の中でいろんな思考が駆け巡る。
ふぅ・・よし!
取りあえず強めに突きを入れてみよう。
もし敵でないのなら、謝るさ。
俺は呼吸を整える。
シッ!!
犬モドキの背中めがけて、俺は金属の棒で突きを入れてみた。
これくらいなら相手が人間でも死ぬことはないだろう。
ドン!
見事に相手の背中、ど真ん中に命中。
「ギャン!」
え?
ギャンって・・やっぱ人じゃないのか?
しかし、ものすごい形相でこちらを見返してきた。
強烈に威圧してくる。
「うわおぉおおおん」
俺から突きを入れてなんだが、完全に敵だ。
人の言葉じゃないし、明らかに目が違う。
今にも俺に噛みついてきそうだ。
だが、大きく動こうとはしていない。
思ったよりも大きなダメージを与えれたのか。
しかし、これで確信した。
人じゃない!!
切り替えろ!
即時行動。
今度は迷わず手首をひねりながら、金属棒を思いっきり突き出した。
「ハッ!」
遠慮はしない。
よく散歩させている犬で、リードを長くしている奴がいる。
もし飛びかかってきたら思いっきり蹴り飛ばしてやると、俺はいつも思っていた。
まぁ、こちらから仕掛けることはないが。
その気持ちも込めて打つ!
ドン!
きれいに犬モドキの胸辺りにヒット!
犬モドキの動きが鈍くなったところへ俺は回し蹴りを入れる。
きれいに入った。
その後、夢中で俺は棒で突きまくった。
ドドドド・・・!!
「はぁ、はぁ、はぁ・・」
少ししてロンリーウルフは動かなくなる。
魔物はしばらくすると蒸発するように消えた。
き、消えた?
どういうことだ?
時間にして1分くらいだろうか。
その後にはお約束の石みたいなものが残っていた。
『経験値を獲得しました』
天の声が頭の中で聞こえた。
マジか?
本当にゲームだな。
夢じゃないだろうな。
・・殺してしまった。
いや、相手は刃物を持っていた。
わからないが、やらなきゃやられていたかもしれない。
でも、なんであの犬モドキは消えたのだろう?
・・・
とにかく考えるのは後だ。
落ちていた石を拾いあげてみると普通の石とは違う。
キラキラと光っている。
きれいだな。
ゲームなら素材アイテムとして売れるのだが。
俺はステータス画面を出してみる。
何か情報はないか・・ないな。
俺は魔物を倒した罪悪感のようなものを考えないようにしていたのかもしれない。
石を見たときには嫌な気持ちは忘れていた。
石をステータス画面に近づけてみる。
するとスッと石が画面に吸い込まれた。
「うぉ!」
俺はビクッとして手を引っ込めたが、別に何も起こらない。
一体何だったのだろう?
!!
サッと俺は身をかがめる。
何か皮膚の周りにザワザワした感覚があった。
ピッ!
気配察知のスキルなのか、自分を中心としてレーダーのように感じることができる。
5匹の小さなものが近づいてきていた。
なるほど・・これは便利だ。
種別がわかればなおいいのだが。
俺がそう思うと、ピッと頭の中に状況がイメージとして現れる。
そして、名称が出た。
ゴブリンのようだ。
近づいてきていた。
レベルは2。
格下レベルだが、5匹もいるとなると大丈夫か?
数の暴力でやられるかもしれない。
しかし、隠れていても仕方がない。
レベル差を信じるしかない。
俺も心を決める。
よし!
敵に近づいてみるが、相手はこちらにまるで気づいていないようだ。
塀や電柱などに隠れながら3メートルくらいまで近づく。
まだ気づかれてない。
俺のスキルが役だっているのだろうか。
まぁいい。
シッ!
俺は一気に間合いを詰め、一番近いやつに思いっきり金属棒で突きを叩き込む。
そのまま、隣の奴を横に蹴り、棒で顔に連続突きを入れた。
ドン!
ドドドド・・ドガ!
間髪を入れずその隣のやつに回し蹴り、そして残りの2匹を棒の両端で交互にドン、ドンと打ち付けてみる。
「ふぅ、ふぅ・・」
ゴブリンたちはその場から動けないでいる。
一瞬、可哀想な気したが、ここで倒しておかないと絶対にダメだろう。
切り替えろ、常識を!
ドシュ!!
俺の手に嫌な感触が伝わるが、気にしたら負けだ。
ゴブリンが動けない間に5匹全部に止めをさした。
「はぁ、はぁ、はぁ・・」
できるものだな。
俺は自分自身を疑った。
緊張とかで麻痺しているのか。
とにかく生き物の命を奪った。
何とも言えない感じが少しはあるが、考えるのは後だ。
しばらくすると、ゴブリン5匹全部が蒸発して石が残った。
やはり消えるな・・いったいどうなっているんだ?
まぁいい。
とにかく何とかなった。
レベル差だな。
途中、天の声で経験値を獲得しました、が聞こえていた。
戦闘中でも聞こえるんだな。
俺はそんなことを考えながら、ゴブリンの石を拾う。
5つの石を回収して、俺はその石をステータス画面に取り込ませる。
どうなるかわからないが、とりあえず吸い込むのだから、何か役に立っているのだろうと思う。
さっぱりわからん。
ん?
固有スキルに杖術なんてのがあるぞ。
棒を使ったからか?
使うと自分のモノになるのか?
それとも俺の武道経験が役に立っているのか?・・わからない。
さて、家から200メートルくらいしか離れていないが、早くも魔物が徘徊しているようだ。
まだ5時過ぎだぞ。
時間は関係ないか。
しかし、どのタイミングで自然界のシステムが変わったのかな?
とりあえずいつもウォーキングする範囲を回ってみよう。
俺はそんなことを考えながらゆっくりと歩いてみる。
!
早速、気配察知に引っかかるものがある。
結構いるな。
しかし、ほんとにいいなこれ。
頭の中にイメージとしてマップが浮かぶ感じだ。
迷子にならない。
いかん、いかん。
なに余裕ぶってるんだ。
まだ何もわかっていない。
とにかく慎重にし過ぎて、し過ぎることないだろう。
ゲームじゃない。
俺は頭を振りながら気を引き締める。
さて、人間でない奴らは魔物と呼ぼう。
魔物に対して俺が疑問を持つと、レベルと種族が表示されるようだ。
これはありがたい。
今、表示されている魔物は、ひとつにはまとまってはいない。
ロンリーウルフが一定の距離をおいて動いている。
ん?
もしかして、これって大きくみたら群れの行動かもしれない。
ロンリーウルフ1匹1匹の間は50~70メートルくらいだ。
その後ろ50メートルほどにはゴブリンが5匹単位でいる。
さっきのロンリーウルフとゴブリンって1つの単位じゃなかったのか?
焦っていて状況など確認できなかったが、全体でみたらそうみえる。
扇状に広がりつつ、先頭がロンリーウルフ、その後ろをゴブリンが移動している感じがある。
それほど知能があるのか。
30歳までは海上自衛官だったわけだが、まさかその知識が役立つとは・・。
俺は頭を振る。
今は現状を見ろ!
何余裕ぶってるんだ!
かなりの数だが・・全部で4つの単位になる。
ロンリーウルフ1匹とゴブリン5匹の1単位が4つある。
先ほどのと合わせたら5つの単位になるが。
感知できないだけでもっと多いのかもしれない。
いや、考えるよりも一番近いロンリーウルフからやってみよう。
全部に集まられたら面倒だ。
やるしかない!
数を減らせば、とにかく襲われる脅威が低下する。
攻撃は最大の防御。
迷っていたら相手に有利に働く!
俺は、そう決断したら即行動する。
ロンリーウルフに近づき真正面に立つ。
即座に口に向けて棒を内側に捻じりながら突き入れた。
相手にしてみれば、いきなり目の前に現れたような感じだっただろう。
忍び足などのスキルが役に立っている感じだ。
まともに突きが当たり、声も出さずに倒れる。
しばらくすると蒸発。
なんで蒸発するのだろう?
ゲームなら、こう叫ぶんじゃないか。
「素材が集めれないじゃないか」
って、余計なことを考えてしまう。
油断大敵だ。
マジで!
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