どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ

ボケ猫

第1話 まさか、異世界なのか・・・違うようだ



「ステータスオープン」

・・・

俺の目の前に半透明のパネルが現れた。

夢・・じゃないよな?

俺はゆっくりと周りを眺めてみる。


俺の家だ。



はぁ・・俺もアラフォーと呼ばれる歳になった。

子供もおり、嫁も健在。

ただ、自分の居場所は・・薄いな。

かつては公務員だったが30歳で体調を崩し、今は自営業者となり何とか食いつないでいる感じだ。

この社会は一度転んだ人間には厳しいらしい。


そして、嫁からは毎日、金、金、金の呪文を聞かされる。

俺の体調など考慮することなく、簡単に金稼いで来いという。

もっと支出を見直せば? とは、今の俺では言えない。

まさか、こんな女だとは思ってもみなかった。

紹介された時には可愛らしく見えたものだが、俺の見る目がなかったのだろう。

それも遠い過去の話。

そんな俺の秘かな夢は、嫁が病床で死ぬ寸前に、どこかでコーヒーを飲みながら過ごすことだ。

とはいえ、嫁の方が7歳も若い。


女性は母親になった瞬間に激変する。

男では不可能なことを成し遂げるからだ。

命を産む。

そこには女の人ではなく、お母さんが存在している。

男は、単純に奇跡を目撃させられる。

そして、無条件で男は嫁に頭が上がらなくなるのだろう。

自分だって母親から生まれてきたのは間違いないのだから。


ただ、旦那を金というモノサシで計るのはやめてくれる?

男ってAMT?

しかしこの嫁、子供たちの学校行事などはよくやってくれている。

それに家の外では受けはいい。

それだけは感心するところだが、俺への毎日の小さな嫌がらせはボディブローのように効いている。

いじめじゃないのか?

そんなモヤモヤした思考を抱きながら、俺は日々を送っている。

------------------------------------------------------------------------------------------------


さて、PCを開いたり本屋を巡れば「異世界」もの作品が目に入る。

おっさんになればなるほど、そんな世界に憧れというか、あっても面白いだろうと思う。

現実逃避か!


「ステータスオープン」

俺の口癖だ・・痛すぎる。

つぶやいたり念じたりするが、出るはずもない。

当たり前か。

ただ、毎日の嫁のストレスから逃避したくなるのは俺だけではないだろう。

せめて気持ちだけでもダイブさせてくれ。

そんなことを考えながら、今日がまた過ぎていく。



家に帰れば嫁のプレッシャーが待っている。

小1(♀)、小4(♂)、中3(♂)と、俺には3人の子供がいる。

そんな俺の職業は整体業。

人にリラックスを提供する仕事だ。

自分が体調を崩したこともあり、何となく体に関することに興味があったと思う。

それで学校に通い東京の整体院で働いていたが頃合いを見て帰郷。

だが、地元ではほとんど流行ることもない。

そりゃ嫁も怒るか。


さて、自宅の玄関を通過すればリラックスどころかストレスの嵐。

そりゃ稼ぎは少ない。

でも、それを言っちゃあおしまいだろって感じのことを平気で言ってくる嫁。

たまらんよなぁ・・男って案外打たれ弱いと思う。

頭の中だけでも異世界に行きたくもなるよ。


俺も副業と思い、少しアルバイトもしている。

今は違うが、きつかったのは新聞配達だ。

2時半に起きて出勤するが、半年ほどでやめてしまった。

俺の根性がないからだろうか。

その新聞配達だが、冬の作業を終えて6時くらいに帰って来ると嫁はまだ寝ている。

せめて、部屋の暖房くらいつけてくれてもよさそうなものだが、完全熟睡。

俺がいくら働いてもすべて金換算になるらしく、少しも寄り添う気持ちはないみたいだ。

悪魔か!


風呂に入ってゆっくりしよう。


お風呂から上がって軽く食事を済ませる。

俺は自分の食事は自分で用意する。

体調を崩してから健康志向になったためだが、嫁は一切協力をしない。

ほんとにパートナーか?

嫁の本性がわかってからは、命の源、食事を任せられないというのが少しはある。

冗談だが・・いや、半分は本気だな。

まぁ、相手にしてみれば一人だけ違う食事を作るのは、逆の立場だったら俺でも嫌だろう。

そこは理解する。


みんながお風呂に入った後、俺には掃除が待っている。

トイレ掃除も俺の仕事だ。

その他の家事も結構するぞ。

などと思っていると21時45分が過ぎていた。

そろそろ眠らなきゃ。

今日も疲れた。

おやすみなさい。



朝が来たようだ。

時間は4時30分。

いつもの時間だ。

外も薄明るくなってきており、この時期はもう電灯はいらない。

乾燥していた食器を静かに片づける。

俺は折りたたみベッドで寝るので、折りたたんでその上に布団を掛ける。

寝る場所も俺だけリビングの隅で寝る。

稼ぎの少ない男には、人権は存在しないみたいだ。

これが俺のルーティン。


この時間、他の家族は寝ている。

嫁などは7時過ぎまで起きてくることはないだろう。

子どもたちの方が早い。


さて、一通り終わって俺はコーヒーをれる。

椅子に座り、PCの電源を入れてコーヒーを飲む。

ふぅ・・おいしい。

コーヒーの香りが特にいい。

4時45分。

俺だけの時間だ。

周りも静かでとても心地よい。


ん?

PCの画面の真ん中、まだグルグル回っているな。

朝は起動が早いはずなんだが。

・・・

遅い!

まだグルグル回ってるぞ!

ええい、まだか。


コーヒーをグビッと飲む。

あつっ!


俺はPCの画面を見ながら、いつもの習慣でつぶやいてみる。

「ステータスオープン」

!!

パッと自分の目の前に半透明の画面が現れた。

「うわ!」

思わず声が出る。

フリーズした・・俺がだ。

マジか?

俺はその現れた画面にそっと触れてみる。

チョン、チョン・・。

薄い膜に当たっているような感触がある。

どうやら触れられるようだ。

夢…じゃないよな?


PCの画面は接続された状態になっていませんと表示がでていた。

ネット環境がわるいのか?

やっとグルグルは終わったらしい。

それよりも、今はこの半透明の画面が気になる。


これって・・マジで異世界ものだよな。

画面を見ていくと名前がある。

俺の名前だ。

苗字は・・ないな。

やはりステータス画面なのか?

しかしなぁ・・ほんとに夢ってことはないよな。

取りあえず、自分の頬を殴ってみる。

ドン!

・・・

痛いな。

夢ではないようだが、他に確認する方法はないものだろうか。

そんなことを思いながらも半透明の画面を見つめる。


う~ん・・レベルは5。

それよりも、いきなりレベル5か?

そう思ったが、たったレベル5と思うべきか。

小学生から高校生まで少林寺拳法。

今でも軽い基礎トレーニングは健康のためにやっている。


テツ

レベル:5

種族 :人

HP :50/50

MP :20/20

力  :43

防御 :35

敏捷 :55

技能 :37

運  :57

職業 :未設定


固有スキル

探索1


う~ん・・これが高いのか低いのか、良いのか悪いのか全くわからない。

固有スキル、探索1って何?

職業が未設定?


とにかく夢でなければ、今までの世界の事象が変わったということだな。

普通、こんな突拍子もないことを受け入れられるはずはない。

ただ、俺は少し変わっていると思う。

体調を崩してから、現代の社会常識に疑問を抱き続けてきた。

医者や有識者が良いと言っているものでも、時代が変われば変化する。

全く逆のことだってある。


オカルトは嫌いだが、異世界転生など、その考えは理解できるものがあった。

今の世界がどうして1つだけの時空世界だと言えるのか。

シミュレーション仮説なんてのもあったな。

・・・

って余計な連想が浮かぶ。

それはいい。


さて、今の状況。

夢じゃなさそうだ。

そして、現実に起きていること。

それが事実だ。

現実も一人一人違うが・・ええい、余計なことが頭をよぎるなぁ。

俺は頭を軽く振る。

これは現実だ。


実際に目の前にステータス画面らしきものがある。

俺は不安と同時に少しワクワクした。

もしかしたら、本当に異世界物語の始まりなのか?

初めてゲームをした時のキャラ設定をしている感覚に似ている。


時間はまだ5時になっていない。

いつもなら散歩するのだが・・少し外に出てみようか。

いや、危ないか。

この展開、ゲームやラノベなら魔物が徘徊してるだろう。

・・って、そんな急に・・違うな。

俺の頭の中でいろんなことが浮かぶ。


落ち着け!

世界が変化したのだ。

何があってもおかしくはない。

しかし、夢じゃないよな。

しつこく自分に問いかける。

異世界ものだな。

そう思わないと始まらない。

切り替えろ!!

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さて、これが現実として、お決まりの初期にやるべきことはレベルアップしかない。

ほんとに初期なのか?

いや、昨日まではいままでの世界だったはずだ。

う~ん・・全くの手探り状態だな。


頭の中で凄まじく思考が駆け巡る。

フフフ・・俺は自嘲する。

全く、何を高揚してるんだか。


そういえば、ステータス画面に職業未設定となっていたような感じがする。

ステータスオープンと頭の中で思ってみる。

パッとステータス画面が現れた。

なるほど、口にしなくてもいいようだ。

やはり夢ではないようだ。


職業のところにタッチしてみると、職業が選べるようだ。

表示されたのは6つ。

「戦士」

「魔法使い」

「盗賊」

「僧侶」

「テイマー」

「弓使い」

魔法使いなんてあるのか。

まんまゲームだな。

僧侶って回復系か?

テイマー・・ペットを飼ったりしている人向けか?

俺の家では動物は飼っていないぞ。

俺が飼われてるってか?


さて、生き延びる可能性を考えたら盗賊か戦士だよな。

魔法使いというのも捨てがたいが。

ステータス的にはMPが低い。

各種職業をタッチしてみたが、詳しくは説明がない。

戦士を見てみると、武器を扱って戦う職種とある。

当たり前だろと突っ込んでみたくなる。

・・・

・・

俺は少し迷ったが「盗賊」を選択。

ピッと・・ん?

身体が少し軽くなったような気がする。

マジか?


おぉ、ステータスの数値が少し変化したようだ。

俺は思わずニヤッとした。


テツ

レベル:5

種族 :人

HP :50/50

MP :20/20

力  :43

防御 :35

敏捷 :57 +2

技能 :38 +1

運  :57

職業 :盗賊1


固有スキル 

探索1

忍び足1New

気配察知1New


なるほど。

固有スキルが新しく表示される。

忍び足に気配察知。

1というのは練度か何かだろうな。

とにかくレベルを上げなきゃな。

間違っていないと思う。

自己鍛錬でもレベルは上がるのだろうか?

俺は慌ただしくいろいろ連想していた。


何が何だがわからないが、本当にゲームのようだ。

やはり俺はワクワクしていた。

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