第134話 零対高頭

 「試す? 何を」とは言わない。


 高頭は外に誘う。 飲んでいた店の裏側。


 地面はコンクリートではなく砂。 


「ここは?」


「店員が駐車場に使う場所。 まぁ、店長しか使わないから自由に使えるんだ」


「ここで試すのですか? 互いに酒が入っています」


「それは……どっちの意味で?」


「どっちとは?」


「酒が入っているから危ないという意味ですか? それとも酒が入っていて加減ができないって意味ですか?」


「――――」と零は無言だった。


(似ている……のか?)


 何か、考え……思考……不思議だ。 共感している。


 いつの間にか構えている。


 体は、何も考えず……頭が戦おうとしている。 心が共鳴している。


 足を蹴られた。 


 「あぁ」と息を漏らす。

 なんて雄弁な蹴り――――飛鳥が死んでから学んだ格闘技と聞いた。


 飛鳥と同じトレーニング。 郡司飛鳥になろうとした男の攻撃。


 理解できる。 理解できてしまう。


 ボクシングテクニック。


 当たらない……互いに……


 フェイントを入れ――――ここで強打を打ち込む。


 受けるか……だったら、一回引いて――――ここ。


 頭部を打ち抜く。


 やはり経験の差か。 こんな単純な戦術に引っかかる。


 零は、高頭に対して、そう評価を――――評価を下すのは早かった。 


 蹴り、突き……どんどん高頭の速度が上がってくる。


 飛鳥に似た打撃。 似た戦略。 似たコンビネーション。


 しかし、明らかに郡司飛鳥よりも打撃が重い。 シンプルな力が強い。


 力任せの攻撃。 徐々に押し込まれていく。


 そして、力が勝っていれば、投げが決まる


 路上の喧嘩……コンクリートではないにしても、ダメージは大きい。


 固い土の地面。 高頭は踏みつけに来る。


 逃げる零。


 まさか、ここまで自分が押されるとは思っていなかった。


 (よくぞ、よくぞここまで、鍛錬を――――) 


 感動している。 そんな自分に驚く零。


 高頭の魅力に気づいている自分。 


 (けど――――)


 高頭の足を掴む。 そのまま、押し倒す。


 寝技に行く。 頭と頭がぶつかる。


 流血。


 血が目に入り、視界が殺される。


 けど、関係ない。 寝技は目が見えなくても可能だ。


 人間の足や腕の場所は、互いに体が接触していれば、およその位置が把握できるのだ


 寝技は正直だ。


 基本の反復練習。 技の知識。 体の使い方。


 それらが強さに直結する。


 空手家の自分と互角の寝技――――やはり、高頭剣慈の実力は、ここまで。


 底が見えた。


 だが――――面白い。 そう思う自分に驚く零だった。


   

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