第133話 高頭の勧誘

 零は強い酒を喉に流し込んだ。


「おっ、意外とお強いですね」と茶化したように高頭は笑う。


「私を引き抜くために呼んだのですね」


「えぇ、零さんってどうして鉄塁空手にいるのですか?」


「どうして?」と零は考えた。


 岡山館長に対する恩義とか、そういった仁義や他者が浪漫を持つような事はない。


 鉄塁空手と言えば、日本でも有名な空手団体だったから入門した。


 鉄塁空手に『本家』とついているだけあって、無印な『鉄塁空手』の上位だと思って入門したのに過ぎない。


 確か13才。 中学生の頃だった。


 今よりも活気がある本部。 岡山館長ではない先代の時代だった。


 そこで基本を学ぶ。楽しかった。 しかしある日、本部に数人の男がやってきた。


 「おい、親父……金」とぶっきらぼうに金の無心にきた岡山達也だった。


 「ここには来るなと言っただろ」と万札を何枚が渡していた。


 それだけで道場から出ていく。 仲間を引き連れている姿。おそらく、当時はカラーギャングと言われているアウトロー連中だったのだろう。


 そんなある日――――


 「おい、お前……さっき俺たちの事を見てただろ?」


 道場の帰り、岡山達也たちに呼び止められた。


 こちらは中学生。 向うは既に成人しているかもしれない。

 

 「だせよ……」


 何を言っているのかわからない。 どういう意味なのか?


 困惑していると殴られた。


「金だよ。金……わかっているだろ?」


 理不尽。 この大人たちは自分から金を取ろうとしている。


 そこに怒りが湧き出て来た。


 構わない。 大人たちに囲まれてぼこぼこにされても――――


 考える間もなく、零は動いていた。 


 誰でもない。狙いはリーダー格である――――岡山 達也だった。


 勢いよく、突っ込み……馬乗りになると拳を叩きこんだ。


「おい!」 「何やっているんだ!」


 罵声が背後、あるいは横から飛び……殴り、蹴られる。


 だが、構わない。 殴る。コイツだけは殴る。 許さない――――


 気がつけば病院にいた。


 誰にやられたのか? 


 どんなに尋ねられても零は言わなかった。


 倒れていた場所、発見された時に岡山達也はいなかった。


 それから――――


 「よう! おまえ、良い根性してるじゃねぇか!」


 顔がボコボコに膨らんだ岡山達也が見舞いに来た時は心臓が掴まれたような感覚だった。


 それからの縁だった。 


 岡山達也が館長に就任した時、


「給料をやるから俺に下で働け」


 そう言われて、今まで鉄塁空手 本家の佐々間 零として生きて来た。


 それが今――――


「どうです? 少し、外に出て試してみませんか?」


 高頭は外に誘い始めた。   

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