第118話 郡司飛鳥対花聡明 ③

 聡明の攻撃に雑味が増えた。 しかし、必ずしもそれが悪いわけではない。


 激しさと素早さから繰り出される大技。 当たれば一撃KOをあり得る技の連続。


 残された時間が少ないからこそ、スタミナも被ダメージも無視した猛攻。


 それに対して飛鳥の攻撃は――――


 ジャブ。


 左腕に力を入れず、素早く軽く放つ。


 しかし、その狙いは正確であり、


 「――――ッ!(この動きの中、的確に傷口に当ててきやがる)」


 鮮血が舞い、紅の雫が見えるような流血。 


 それをより激しく演出するかのような飛鳥の攻撃。


 傷口は激しく擦られ、斬れた皮が、肉が徐々ではあるが……広がっていく。


 「あぁ、いいぜ」と聡明は無意識に呟いていた。


 飛鳥、お前は戦いに何を見出している? 楽しいか? いや、楽しいから戦うんだろ?


 他者の動きを読んで、痛みを与えるのが楽しい。 思わぬ攻撃を受けて驚き、時には激しい痛みを伴う。


 痛み、殴られて、蹴られて……そんな痛められるのですら楽しんだ。


 ただ、相手を痛めつけたい。 華麗に勝ちたいならプロのリングに上がらなきゃいい。 路上の喧嘩屋でもなればいい。


 正直、本来の俺はそっち側に近いメンタルだ。


 けど……違うんだよな。


 お前はどうだ? 飛鳥? お前は違うだろ?


 なんていうか……喧嘩屋じゃなくアスリート気質?


 クレーバーとか、タクティクスとか……


 プレイヤーとかゲーマーとか……そういう感じか? 


 まぁ、ユーチュバーだからな。他者を楽しませるのが目的? いや、でも勝ちたいのだろ? それが最優先事項なのかはわからないが……


 だから、それもありだ。 真っ向勝負を行わない。 戦術的で冷静で、相手を的確に追い詰め支配する。


 そんな戦い方もありだ。 ある意味では卑怯とも言わる戦い方。


 それが――――それをやられて楽しいと思っちまう俺もいるんだよなぁ。


 だから、俺はここにいて、こんな戦いをしている。


 あぁ飛鳥よ。お前は今、何を考えている? 何を考えながら俺を殴っている?


 

 この時、飛鳥は何を考えていたのか? 答えを言うならば――――


 何も考えていなかった。


 ただ、機械のように正確に傷口を狙う。 それだけに集中していた。


 なにもない。


 気づけば、相手に勝利している。 この時、飛鳥が目指す戦いの極致とは、そういうものなのかもしれない。


 考えない。 無心。 相手が動いていると――――既にそれに対処した動きになっている。


 想像と創造。 事前に組み上げていたプログラムのように――――


 打つ。それから――――


 基本に忠実にジャブで意識が散漫になった相手に強打を叩きこむ。

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