第75話 景虎対新堂 航 ②
景虎の打撃を入り交ぜたタックル。
ジャブから右ストレート。打撃のフェイントの目的だけではない。
タイミングが合えばKOもできる威力の右ストレート。
相手にガードされてもいい。受けた相手の上半身は、重心が後ろへ下がる。
重心が後ろへ下がる。それだけでパンチの威力は下がり、タックルのディフェンスがうまくいかない。
そして――――今。
一度、大きく沈み込む事で、相手の視線から消える。
100%決まるタックル。
――――それが今、いともたやすく破られた。
新堂の両足は景虎のタックルに合わせて、後方へスライドされる。
掴むべき標的を失い景虎の両手は虚空を掴み、後頭部に重みを感じた。
いわゆる、かぶり状態。
タックルは、体を横になるように伸ばして飛びつくような動きだ。
上からの圧力には弱い。 腕立て伏せの状態で頭を押さえつけられたようなもの。
だから、両足を後ろに素早く放り出すように前のめりになり、胸を相手の後頭部に押し当てるようにして、相手のタックルを潰す。
だが、油断してはならない。
優秀なレスラーは、この状態からでも相手の足に指だけでも届けば、ここからでもタックルは決まる。
景虎は、さらに右手を伸ばす。新堂はそれに合わせて反時計回りに動いて、躱す。
「甘い、甘ぇだよ! お前!」と景虎は逆の手を潜り込ませ――――
飛行機投げ。
柔道では肩車と言われる投げ技。
投げられた新堂。景虎は、その上を取ろうとする。
寝技のポジショニング。
新堂はガードポジション。両足で景虎の胴体を挟んで動きを束縛する。
ガードポジション、相手を抑え込むため膠着を誘いかねないポジションとも考えられたが、近代MMAは上から肘打ちが有効とされ、上を取ったものが有利とされている。
当然、景虎は肘を振り落とす。 一撃、二撃……
新堂の額が切れて血が零れ落ちる。 肘付近の骨は固く、強く擦れるような一撃が入れば、額が切れる事がよくあるのだ。
肘を嫌がった新堂が景虎の腕を押さえに来る。
そのまま、ガードポジションを解く。
両膝立ちになっていた景虎。その足を新堂は足で払った。
前のめりに倒れていく景虎の動きに合わせて、新堂はバックを取りに行く。
嫌がる景虎は立ち上がる。その瞬間――――
寒気が走り抜けた。
(コイツ、何者なんだ? 打撃だけじゃなくて、レスリングも、柔術も俺より……)
その思考は、唐突な浮遊感によってかき消された。
バックを取った新堂は、そのまま景虎は背後に投げたのだ。
スープレックス。
それも、ジャーマン・スープレックス。
後頭部を痛打した景虎は、そこで意識を失った。
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