第74話 景虎対新堂 航 ①
「押忍」と零は岡山館長に頭を下げた。
仇敵、宿敵、大敵と様々な言い方があれど、蒼井派に対して本家派の人間は、そういった感情を持っている。
それは零とて例外ではない。
増して館長クラスとなると、想像にすらできない黒い感情が渦巻いているのだ。
現館長と元館長。その両者に渦巻く思いとは……押して忍ぶ物がある。
だから――――
両者も「押忍」を返した。
そうして背を向けた零を「待て」と岡山達也は止めた。
「次の試合、ここで座って見ていけ」
「……それほどの相手ですか? 次の選手は?」
「あぁ、楽しめるだろうよ」
暗転。 選手の入場が始める。
曲が流れる。それは、その選手が持っている入場曲だった。
有名なミュージシャンがその選手のために作曲したロック調の曲。
つまり、その選手はプロの格闘家……それも大きな格闘技団体に所属している。
メインイベンターほどではないにしてもセミファイナルで試合を組まれるレベル。
その団体でトーナメントを開催すれば、優勝も狙える選手―――
名前は景虎。 苗字はない。
「――――なぜ景虎選手が?」と零。
「おっ!知ってるかい?」と岡山 達也。そして、こう続ける。
「なんせ合う選手がいないっていうか……ちょうどいいかなってな」
「ちょうどいい?」と零は、言葉の意味が分からず困惑する。
しかし、景虎の対戦相手が現れたため、それ以上は聞くことができなかった。
対戦相手は、景虎よりも少し背が高い。しかし、体重は軽いだろう。
細身の選手だった。 名前は――――
新堂 航
無名の選手だ。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
景虎のスタイルは北米スタイルと言われるものだ。
総合格闘技創世記からある考え――――
高いレベルのボクシングとレスリングができれば総合格闘技で勝つ事ができる。
北米スタイルとは、その考えの進化系だ。
レスリングの構えとボクシングの構え。両方ともに前傾姿勢。
そのため、蹴りを極力排除。ボクシング技術で打撃のアドバンテージを奪い、隙をついてタックル。 そして、ボクシングとレスリングと同じように高度な柔術でポジショニングを維持。
上からの打撃、パウンドで仕留めるスタイルだ。
新堂と景虎。
互いに間合いが縮まって行く。
意外な事に、最初に手を出したのは新堂の方だった。
ジャブとか、様子見は一切ない。 いきなりの右フック。
虚を突かれた景虎の体が揺れる。
「てめぇ!」と怒鳴りつけるように出したパンチ。
しかし、空を切る。 華麗ともいえる新堂のフットワーク。
景虎は――――
「あぁ、アンタ……本職のボクサーってわけね。面白い上等だよ」
景虎の作戦はわかりやすい。
ボクシングの打撃からのタックル。
シンプルな作戦だが、有効的。 打撃を織り交ぜたタックルは、打撃系にとっても組み技系にとっても防ぎにくい。
それを景虎は決行した。
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