第46話 ボディビル 梅垣 慎吾 ⑨
強烈なパウント。
一瞬、慎吾の中から快感のような感情が湧き出していく。
打撃で倒す快感。 やることは人間を殴り倒すだけの蛮性。
文明人がなすべきではない立ち振る舞い。 だが……いや、だからこそなのだろうか?
快感。
決して拒否できない快感が慎吾を包んでいた。
そして――――
僅かではあるが……リングが沈むような威力。
だが、その打撃は飛鳥の顔面をとらえていなかった。
先ほどのサッカーボールキックの影響だろうか?
さらにカウンター。 飛鳥の立てた膝が飛び込むようにパウンドを放っていた慎吾の腹部に刺さっている。
ゴロリと横に転がった慎吾の表情は悶絶。
自ら放った渾身の一撃が仇になり、鋼鉄にすら例えられる腹筋を貫かれる結果になったのだ。
その隙に飛鳥は立ち上がった。
それから動揺……その理由は
(のたうち回っている人間に、どうやって止めをさすべきか?)
従来の試合なら、ここで止まっている。
だが、ここではルールがあって、ないようなもの。 レェフリーのような者もいない。
さらに問題は――――
悶絶して、のたうち回っている慎吾の目が死んでいないこと。
飛鳥の躊躇を読み取ったのだろう。 悶絶するほどの痛みを乗り越え、立ち上がる。
振るうは剛腕。
だが、しかし、そこには恐るべき力も速度も残っていなかった。
この瞬間、飛鳥が思い浮かべた言葉は
介錯
この2文字のみ。
慎吾の打撃を掻い潜った飛鳥は一気に背後に。
飛ぶ付くような動き。蛇のように首元を狙い、腕を巻き付ける。
胴締めスリーパーホールド
完全に入った絞め技は外せない。
例え、超腕力を持つ慎吾だとしても、例外はない。
1秒……
2秒……
3秒……
……5秒を経過した直後に慎吾の体から、すべての力みが取り除かれた。
紛れもない死闘。 そして決着。
あまりにも力を入れ過ぎたせいだろうか? 慎吾の体に巻き付けた手足を解くのにも容易ではない様子。
乱れる呼吸にあふれ出す汗、疲労で混濁している意識。
それでも……それが礼儀だと言わんばかりに片腕を上げる飛鳥。
それは勝ち名乗りだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます