第45話ボディビル 梅垣 慎吾 ⑧

 

 格闘技は楽しい。


 慎吾はそう思っている。


 人と人との戦いゆえに予想外の展開が訪れる事がままある。


 だが、それすら想定する。 できなくても再構築する。


 まるでパズルゲームだ。 最高に楽しい。


 だが、それを理解してくれない人も多い。


 強烈な打撃1発で派手に華麗に倒すのが面白い。楽しい。


 それは良い。 人それぞれだ。


 しかし、こちらをおかしな目で見てくるのはやめてほしい。


 なぜ? 緻密な計算で勝つのがいけない? それを楽しんではいけない?


 わかりずらいから? 馬鹿な。 それをこちらに押し付けてくるな。


 ……わかった。ならばやろう。 


 幸いにして格闘技は比べられる。 君の考えと自分の考え、勝った方が正しい……とはならないだろうが、君を黙らせる事はできる。


 そうして梅垣慎吾は勝ち続けてきた。 反論を黙らせるために――――


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・  


 慎吾の剛腕。


 顎でガードする飛鳥の首にねじ込まれていく。


 かろうじで守り続けていわれるわけは、太すぎる慎吾の腕が仇となっているため。


 しかし、ミシッミシッと絞められている顎から異音が聞こえてくる。


 この時、飛鳥が感じていた物は恐怖。 この状態、慎吾の剛腕が加われば首を捻られる。


 ――――つまりは死。


 やろうと思えばやれる。 それは、当然ながら慎吾も気づいているだろう。


 あいてをころしてはいけません 


 相手を殺してはいけません! それは社会のルールである。


 しかし、総合のルールではない。 いや、探したら殺傷についてのルールがあるのかもしれないが……


 問題は慎吾がやるか、やらないか。 殺すか殺さないか。


 全ては委ねられる。 そして、それはきた。


 一瞬、慎吾の腕が膨らんだかのような錯覚。 いや、力みにより、血液が腕に集結したことで実際に膨らんでる。


 そのタイミング。 首を捻られるタイミングで捻られる方向に体を回転させる。


 慎吾の下半身のロックが緩い。 だから……


 飛鳥の首を捻られた。 しかし、飛鳥生存。


 慎吾の捻りによりも早く、自身の下半身を回転。


 それから、首を捻られる動きに合わせて上半身も回転。


 緩んだ慎吾の腕から脱出する。 


 両者スタンドへ……しかし、立ち上がったのが速かったのは飛鳥の方。


 手をついて立ち上がろうとする慎吾に強烈な蹴りが顔面に放たれた。


 サッカーボールキック


 確かな手ごたえ……足ごたえ?


 とにかく、通常なら終わってもおかしくない一撃だ。


 しかし、梅垣慎吾の筋力。 その一撃を食らっても、動き続ける。


 片足をキャッチして飛鳥の体を持ち上げ、地面に叩きつける。


 そして、自身も飛び込むように――――


 パウンド。


 握りしめた拳を飛鳥の顔面へ振るう。



 


 

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