第37話 転章 ②

 「俺も参加させてもらうぞ」と花 聡明は起き上がりながら言った。


 先ほど失神していたはずなのに、すでにダメージはないという感じ。


 異常なタフネスだ。


 問題は、その発言だ。


 聡明はキックボクサー。それもプロだ。


 他の格闘技イベントに参加すると言って簡単に出場できるはずもない。


 それは聡明もわかっているはず。


 だが、真意は? それが読めずに困惑する零。


 対して聡明の答えは――――


 「契約とは、そちらでクリアにしておいてくれ」


 「なっ!?」


 「キックボクシング発足時は空手団体にいろいろ手を助けてもらったはずだ。そこを前面に押してみろ」


 「無理です」と言いかけた零だったが……


 「構わぬよ」


 そう言って姿を現したのは 鉄審空手館長 岡山 達也だった。


 「つまらぬ契約は俺のほうで何とかする。だから誰でも来い。そのためのオープントーナメントだ」


 にやりと笑う達也。その視線は飛鳥たちに移った。


 「どうだ? お膳立ては上出来だろ? 出てくれるよな」


 「……いや、難しい」と飛鳥


 「なに?」


 「あと2人だ。撮影の予約が2人残っている」


 「……そいつらの名前は?」

 

 「梅垣 真悟と大海原 祥」


 「最新原人の梅原と元力士ボクサーの大海原か?」


 「そうだ」


 「……そうか。じゃ半年後。いや、8か月後だな」


 「ん?」


 「最小のダメージで勝てば、8か月後には余裕でトーナメントに参加できるだろ?」


 「……」と飛鳥は無言でうなずいた。


 「それじゃマネージャーくん、本格的な打ち合わせといこうか」


 「わかりましたよ」と渋々と2人はジムの外へ。


 残され3人は顔を見合わせ――――


 「それじゃ解散とするか」と聡明。


 「いや、まて。お前は病院だろ」と飛鳥。


 「それは貴方もでは? 額が切れたままですよ」と零。


 「俺のは唾でもつけてたら治るよ」


 「そんなわけないじゃないですか……もしかして、今まで病院には?」


 「撮影後でも病院に行っていない」


 零と聡明は顔を見合った。 それから、必ず病院に連れていかねばと強い使命感のようなものに襲われた。


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