君と僕のディスタンス

終谷昇

序章 誰かが起こした記憶

 そこは完全な闇だった。


 一筋の光さえない、完璧な闇。

 ここはどこ? わたしはだれ?

 ずいぶん長いこと眠っていたような気がする。とてもとても長いあいだ。


『誰かいませんか?』


 そう問いかけてみた。けれど、闇からはなんの返事もなかった。

 ぼーっとする頭で思考する。おぼろげながら記憶が蘇ってきた。

 最初に思いだしたのは、殺戮をくりかえすロボットたちと、街を埋めつくす大量の死体。


 そうだ、わたしは死んだんだ。


 あの日、あの世界が、ある人物によって、終わらされた。

 まばゆい光がすべてを包みこみ、わたしは街とともに終わらされたはずだった。


 それなのに、どうしてわたしは生きてるの?

 それにあの人は……。あの人は無事に帰れたの?


『聞こえるか?』


 どこからか突然声がした。声の場所は特定できない。遠くからのようにも、近くからのようにも感じられる。


「……聞こえます」

『よかった』


 それは男性の声だった。どこかで聞いたことがあるような気もするけれど、声にノイズが混じっていてよくわからない。


『君はそこでずっと眠ってたんだ。長いあいだね』

「ながいあいだって、どれくらいですか」

『およそ15年間だ』


 15年……? わたしはそんなにも眠ってたの?

 驚きに声を失っていると、男性は聞いた。


『自分の名前を思いだせるかな?』


 自分の名前。なんだっけ。

 名前は、たしか、えっと……。


 そうだ、わたしは。

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