第2話



 八時のアラームで起きる。由香里も起きてくる。スタミナ丼のお陰で、この半年ほとんど疲れを翌日まで引きずる事はなくなっていた、風邪も引いた覚えがない、毎朝スッキリと起きられる。


 そのことを由香里に話すと。



「確かにそうね、私も疲れが残っている事はほとんどないわ」



 二人でキッチンに行き由香里は朝飯の用意俺は豆乳を取り出してテーブルに着く。いつものパターンだ。



 今朝はガーリックライスの様だ、香ばしい香りが漂ってくる、油で揚げ物をしている音がするのでとんかつだなと思った。



 テーブルに食事が並ぶ、いつもと違うのは俺の方にまでサラダが付いている事だった。ドレッシングではなくからしマヨネーズが付いている。覚えてくれてたようだ。



 いただきますと言い食べ始める。牛にせよ豚にせよいい肉を使っていると食べ飽きる事はない。今朝も美味い食事だった。



 リビングに移動すると飲み物が運ばれて来る、タバコに火を付け大きく吸い込み吐き出す。豆乳を飲んで新聞を広げる、大した事件は載っていない天気予報を見て新聞を畳む。



 思い起こせば由香里が新聞を読んでいるのを見たことがない。



「由香里、新聞読まないのにどうして取ってるんだ?」


「仕事をしてた時にその日の土地の相場が書いてあったからよ、でももう関係ないわ」


「じゃあ、新聞は断ろう。ニュースはネットやテレビの方が詳しく載ってる」


「あなたが読まないならいいわよ」



 俺は早速断りの連絡を入れた。チケットや炊飯器等を渡すから続けて取って欲しいと言われたが、興味ないと言って電話を切った。



「助かるわ、束ねてゴミに出すのも結構しんどかったの」


「ここを断ったから他の新聞屋がまた勧誘に来るぞ」


「あなたが断ってちょうだい、女の私ならなめられるから」


「わかった、それより今日はどうする?」


「お刺身は午後からにしましょ、お肉も切れたから買っておくわ」



 午前中は二人で読書をして過ごした。これは最近始めた日課だった。由香里は恋愛小説を俺は恋愛物以外いろんなジャンルを読んでいるがアクション物が多かった。夢中で読んでいると時間はあっという間に過ぎていく。昼になると由香里は本を閉じてキッチンに向かう、俺も栞を挟んで本を閉じる。



 固まった筋肉をほぐすように大きな伸びをする。小さな本棚がどんどん埋まっていく。



「由香里、本棚を買い換えないか?」


「私もそう思ってたとこよ」


「俺はセンスがないから、由香里が選んでくれないか?」


「わかったわ、ご飯を食べたら先に家具屋さんに行ってから、お肉とお魚を買いに行きましょ?」



 簡単に昼飯を済ませると、家具屋を何件か周った。最後の店で少し大きめのいい本棚があった。



「これいいんじゃないか?」


「そうね少し大きいけどこれからの事を考えるとちょうどいい大きさだわ」



 店員を呼び届けてもらえるか聞いて、支払いをし店を出た、駐車場に車を戻し魚屋まで歩いて行く。肉屋と同じくらい大きな魚屋に入り見て歩く、肉屋の店主とよく似た男がいる。



「隣によく肉を買いに来るんだがあんたは肉屋の店主の兄弟か?」


「従兄弟ですよ、肉屋のお得意さんならサービスしとくよ、魚なら何でも扱っている」


「今日は家で刺し身づくしにしたいから適当に見繕ってくれたくさん入れてくれ、サーモン多めで頼むよ」


「刺し身づくしね、たくさんだね。わかった選んでおくから魚でも見ておいてくれ」



 順番に見て回った名前も知らない魚まで置いてある、由香里が言ってた様にエイやサメまで扱ってるようだ。



「今日は買わないがエイやサメはどうやって食べるんだい?」


「その二つは生でも焼いても美味いよ、だが新鮮な内に食べないとアンモニアの匂いがきつくなる」


「何でだ?」


「サメとかはしょんべんをしないんだ、体に取り込んだまま一生を過ごす、だから肉にまでアンモニアが含まれるんだ」



 二人でへえと納得した。



「お待たせ、こんなものでどうだい?」



 かなりの魚を見繕ってくれたようだ、種類も豊富だ。



「二人で食べるには多いかい?」


「いや、ちょうどいいそれを貰おう」



 カードで支払った、量の割にかなり安く手に入った。隣の肉屋に入る。



「荒木さんいらっしゃい、いつものでいいかい」


「ええ、だけど今日は二枚ずつ多めにお願いするわ」


「ありがとよ、今日は魚料理かい?たくさん買ったみたいだな」


「たまには刺し身も食いたくなってね、今夜は刺し身づくしにする予定だ」


「うちの従兄弟だ、あっちも贔屓にしてくれよ」


「ああ、交互に買わせてもらうつもりだ」


「そりゃありがてえ、今日は新鮮なにんにくをサービスで入れといたよ」



 こっちもカードで支払いをした、由香里の言ってた通り安くなってる様だ。また来るよと言って店を出た。



「あの二軒の店主の喋り方が気に入った」


「活気があっていいわよね」



 笑いながら帰った。



「肉も魚も重いな、紐が指に食い込んだよ」


「お魚が凄い量ね、晩ご飯まで冷蔵庫に入れておくわ。



 そろそろ家具屋も来る頃だろう、本棚を空にしておいた。小一時間程で家具屋がやって来た、設置してもらい古い方の本棚は処分して貰った。本を並べようとした時由香里が。



「先に食べましょ?」



 と言うので、テーブルに付いた。刺し身の盛り合わせが並んでいく。



「ご飯はどうする?」


「これだけの量だ、食ってから考えよう」


「わかったわ」



 小皿にわさび醤油を入れ、食べ始める。



 二人共見たことも食べたこともない刺し身も入っている。どれも新鮮で美味い。



「このタコ生きてるわ」



 由香里が舌に張り付いた吸盤を剥がしている。



「新鮮な証拠だ、そのまま食ってみろ」


「食べにくいけどコリコリしてて美味しい」


「だろ、しかしこんなに新鮮なのに安いな」



 結構食べたつもりが、まだかなり残っている。ご飯を頼まなくてよかった、由香里はお腹いっぱいなのか箸を置いている。



「もう食べれないわ、あなた残りを全部お願いね」


「残したら勿体無い、何とか食うよ」



 時間を掛け何とか全部平らげた、残りが好物のサーモンだったから残さず食べれた。



「もう入らん、腹がはち切れそうだ。だがかなり美味かったこんなに新鮮なのは滅多に食えんぞ」


「そうね、私もこんなに新鮮で美味しいお刺身は初めてよ、今飲み物を用意するわ」



 俺はリビングに移り膨れた腹を撫でた。たまに刺し身を食うのもいい、由香里の言っていたように肉だけでは栄養が偏ってしまう。飲み物が運ばれて来る。



「あなた、イソラテって知ってる?」


「ああ、知ってるがどうした」


「あなたがコーヒーも豆乳も好きならイソラテにすればいいのに」


「コーヒーはコーヒーの苦さ、豆乳は豆乳の甘さで別々に楽しみたいんだ」


「ならいいわ」



 豆乳を飲みながらノートパソコンを開く、依頼のメールが届いていた様だ。行方不明の猫探しや企業の内偵調査はこれまで何度かあったが全部断っていた、今回も同じだろう。一応メールを開いて内容をチェックする。



『村田梨香と言います、早速依頼についてですが、弟が何者かに拐われかけました助けてください、警察にも言おうとしたけど親に止められました、他の興信所にも全部断られました』



 と言う内容だった。携帯電話も添えられれいる。



 初めてまともな依頼かもしれない、だがこれだけではよくわからない事だらけだ。



「由香里、ちょっと見てくれ。初めての依頼になるかもしれない」



 由香里がメールを覗き呟く。



「これだけじゃよくわからないわ、話だけでもちゃんと聞いてあげたら? でもまた危ない事はしないで欲しいわ」


「分かった、とりあえず明日ちゃんと話を聞いてみるよ」



 メールに添付してあった電話番号を控えておいた

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