第71話 イン・ザ・ヘヴン

「で…、つ、次はどうしたらいいですか…」


俺と美沙ちゃんしかいない家で、美沙ちゃんが真っ赤に頬を染めている。たいへんな事態になっている。脳みそがオーバーヒートして、思考能力が失われている。




 この事態を説明するためには、数時間前からのことを説明しないといけない。




 午前七時半。妹と両親が家を出て、電車で二時間ほどの祖父と祖母の住む実家に出かけた。妹にとってはレジャー。両親にとっては、少し時期のずれたお盆だ。俺は、受験生なので、家に残って勉強することにした。


 午前九時半。玄関の呼び鈴が鳴った。


 ドアを開ける。


「こ、こんにちはっ!と、突然すみませんっ!」


妙に緊張した美沙ちゃんが立っていた。あのバカ、美沙ちゃんと約束があったのに、ほいほい出かけちゃったのか。忘れてた…ということはありえないか…。


「あ。い、いらっしゃい…でも、今日は真菜はちょっと出かけちゃっててさ…」


「し、知ってます…。ま、真菜にはメールしたから…」


立ち話もなんだからと、居間に通す。


「ご、ごめんなさい。あ、あの…ほ、本当は、真菜に夏休みの宿題を教えてもらうはずだったんですけど…メールしたら、きょ…今日は出かけるからって…」


「ああ、ごめんね」


そういえば、今日は八月二十六日。夏休み終了まで、あと五日。あと五日しかないのだ。


 コスモクリーナーおとどけより、ずいぶん切羽詰った締め切りである。美沙ちゃんのことだから、きっと可愛く宿題は真っ白なのだろう。


「…そ、それでっ。その…あのっ…」


いつもはきはきとした美沙ちゃんが、予想外にテンパッている。よほど、宿題がピンチなようだ。そんなにうちの妹を頼りにしていたのか。あいつバカのくせに成績がいいという矛盾した生き物だからなぁ。


「…お、お兄さんに、教えても、もらおうと思って!」


なるほど。いくら俺でも、去年の範囲だし、ほとんどの人にとって人生で最高学力を記録するといわれる高校三年生だ。美沙ちゃんの宿題を手伝うくらいは出来るだろう。


「え…ああ、いいよ」


「お、お礼もしますからっ!」


テンパった美沙ちゃんが、無償で手伝いを申し出ている俺に勝手に条件を上乗せしてくれる。


「あ。お、お礼とか別にいいから…じゃ、じゃあさっそくやる?」


「さ、さっそくですか…。わ、わかり…ました」


美沙ちゃんが真っ赤になって、正座したひざの上に乗せた両手は固く握り締められて、ぷるぷると肩まで震えている。


 妹がいないと、美沙ちゃんがここまで緊張する子だとは思わなかった…。


 あれ?


 でも、去年の夏に真奈美さんの補習を待つ間、一緒にいたときは緊張していなかったのにな。というか、思い出した。軽く膝枕とかしてもらっちゃったぞ。ひと気のない夏休みの学校で、制服姿の美沙ちゃんに膝枕とか、俺、たぶん死ぬ直前に思い出して「いい人生だったな」って満足できるな。


 おっと、また妄想世界に突入しそうになった。


 目の前に、リアル女神の美沙ちゃんがいるのだ。すてき記憶をリアルタイムで脳に刻もう。美沙ちゃんのすべてが、俺の人生の素敵モーメントである。


「じゃあ、最初は数学からとか?」


俺が苦手じゃなくて、美沙ちゃんが一人でどうしようもなくなっていそうなものからはじめよう。


「えっ!あっ!そ、そうですよね。す、数学ですよね。や、やるって…。そうですよね」


美沙ちゃんが、持ってきたトートバックから宿題の問題集を出す。


 時間がわりと切羽詰っている。


 とりあえず、まずは埋めることからスタートしよう。


「じゃあ、二人でとりあえず一通りやっちゃおう」


「ふ、ふたりで一通り…って、一通りって、どこからどこまでですか?」


「宿題の範囲。全教科」


「そ、そうですよね。当たり前ですよね」


「うん。当たり前だ」


明らかに様子がおかしい美沙ちゃんだが、美沙ちゃんも妹や真奈美さんほどではないが、それなりに変わった所のある女の子なので、あまり気にしないことにする。


「じゃあ、俺、右側のページの問題を解くから、美沙ちゃん左側やって…」


「は、はい…」


夏休み終了まで時間がないので、問題をクリアすることを最優先にする。半分は俺が、残り半分は美沙ちゃんが解けるなら解くという方式だ。


 同じ問題集を同じ方向から見るので、自然と隣に並んで座ることになる。


 しばし、二人で数学の問題集に取り組む。受験勉強で人生最高学力に到達している俺様にとっては、高校二年生の数学などものの数ではないわ。がはははは。


 …と、一人称が俺様になってしまうくらい楽勝である。


 しかし、問題が簡単だと、他のことに気を取られてしまう。具体的には俺の左側に座る美の妖精、美沙ちゃんだ。今日は半そでのポロシャツにプリーツスカートという、美沙ちゃんにしては女子力抑え気味の格好なのだけど、たまに美沙ちゃんのむき出しの右ひじが俺の二の腕あたりに当たる。そのたびに、初心なぼくちゃんの心臓はばっくんばっくんである。


 …と、一人称がぼくちゃんになってしまうくらいパラダイスである。


 これだけで十分すぎるお礼である。


「お兄さん…」


「うん」


「ぜんぜん分かりません」


しかたない。美沙ちゃんの側の問題も、解いてあげる。


 ページをめくる。


 次も俺が右。美沙ちゃんが左だ。


「お兄さん…」


「うん」


「ぜんぜん分かりません」


しかたない。


 ページをめくる。


 …以下、コピペで物語を進めてもいいが、八週間同じことを繰り返すわけにもいかないので、すっとばす。


 つまり、数学は全部俺が解いた。今度時間のあるときに、ちゃんと教えておかないと確実に不正がバレる。


「わぁ…数学終了ですね!すごいです!こんなに簡単に終わるとは思いませんでした。やっぱり、教えてもらうならお兄さんですね」


教えたというか、全部俺が解いた。


「うん。筆跡でバレるから、あとで書き写すくらいはしたほうがいいよ」


「はいっ。あたりまえです。お兄さんの肉筆なんて誰にも提出したりしませんよ。もったいないもん」


肉筆って言われると、ヤンデレ美沙ちゃんが俺の書いた答案になにをするのかちょっと想像してしまうが、意志の力でストップする。


「お兄さんっ」


美沙ちゃんが、立ち上がって俺に向き直る。


 そして、ぺこり、と頭を下げる。さらさらのボブカットが前に垂れ下がり、またさらりと元に戻る。


「ありがとうございます。数学、クリアですね」


「う、うん。おめでとう?」


おめでとうでいいのか?こういうときの反応って…。


「お、お礼します」


「うわっ!み、美沙ちゃん!?」


美沙ちゃんが、ポロシャツを脱ぎ捨てた!


 視線をそむけたりせず、ガン見した俺、マジ下衆。明日から二宮ゲスオと改名すべき。


「あはっ。びっくりしました?水着着てますよー」


美沙ちゃんがころころと笑う。


 み、水着着てると言っても、ビキニだし、隠す部分的には下着と変わらない。可愛らしく笑うたびに、Dカップがぷるんぷるんと柔らかそうに揺れて、ウェストはすらっとくびれていて、鎖骨が浮き上がっていて、肩は細くて華奢で庇護欲をかきたてられて…。


 ああっ!もうっ!最高に可愛いよ!なんだ、この可愛さっ!脳みそ沸騰しちゃうよ!


「じゃあ、次。理科いいですか?」


そう言って、美沙ちゃんがまた俺の隣にすとんと座る。上半身ビキニのままでだ。上半身ビキニのままでだ。とても大事なことなので二回言った。


 数学のときと同じ要領で、俺が右側、美沙ちゃんが左側の問題を解く。違うのは、五秒に一度俺の視線が左にすっとぶことだ。美沙ちゃんのDカップが居間のテーブルの上に乗っている。テーブルになりたい。美沙ちゃんの右手が消しゴムを使ったりすると、ぷるぷるんと振動が発生する。微速度撮影したい。


 大脳の後頭葉に血液が送り込まれる。視覚をつかさどる。美沙ちゃんのDカップ。谷間だ。おおう揺れた。白い肌だな。二の腕にちょっぴり日焼けのあとがある。こんなに色が白いのに、少し日焼けしていたんだな…。胸の谷間、真っ白だし。うをぉう。


 残りの血液が大脳辺縁系に送り込まれてしまう。本能をつかさどる部分だ。本能的な衝動を、俺の理性をつかさどる前頭葉が全力で抑えにかかる。


 残ったわずかな大脳が理科の問題集を解いていく。


 貧血で倒れる前に、理科の問題を解ききった自分を褒めてやりたい。美沙ちゃんと勉強すると、精神修養になるな。


「理科クリアー」


美沙ちゃんが嬉しそうに、両手を挙げて万歳する。


 両手を挙げて万歳する。


 大切なことなので、二回言いました。


 つまり俺の眼前四十センチくらいの位置で、美沙ちゃんのDカップがぐいっと上に持ち上げられて、また降りてくるということである。


 ぷるんっ。ぷるんっ。


 夏っていいよなっ!


 血液が大脳辺縁系どころか、下半身に送り込まれそうである。正直に白状すると、ちょっと勃ったのにゃ。


 かわいく言っても、だめなのにゃ。有罪なのにゃ。


「お兄さん」


「う、うん…」


「ふふ…お礼タイムです」


超期待。


 美沙ちゃんが、すっと立ち上がり期待をはぐらかさずに、プリーツスカートに手をかける。


 うおお。マジ、マジいいの!?


 スカートが美沙ちゃんの細い脚を滑り落ちる。


 


 うがあああー。




 だ、だめだぁ。完全に脳みその毛細血管くらいはいくつか破壊された。網膜の血管が切れて視界が真っ赤に染まらないのが不思議である。


「な、なんだか。ちょっと恥ずかしくなってきました…」


ビキニ+靴下という非常に凶悪な事態になった美沙ちゃんが、もじもじっとして頬を桜色に染める。やべぇ。激ヤバ。俺の脳みそが溶けて液体になるどころか、沸騰してガスになる。


「ちょ、ちょうどお昼ですし…。お昼ごはんにしません?な、なにか作ってあげますよ」


「え?あ?う、うん?」


空腹とか、全然感じていなかった。消化器官に与える血液は残っていないのだ。


 美沙ちゃん(ビキニ+靴下)が台所へと歩いていく。


 なに?この、非現実的な光景。


 今なら窓の外にUFOが着陸してても、完全に無視できる自信がある。




 神さま。


 ああ、神さま。


 神は、この世に祝福と幸いをお与えになりました。天使が舞い降り、楽園が生まれる。


 具体的には、ビキニ+靴下装備の美沙ちゃんが、うちの台所でピザトーストを作っている。もしパラダイスがあるとしたら、それは天の彼方ではない。うちの台所だ。


 美沙ちゃんの後姿。


 華奢な背中に、肩甲骨が浮かび上がり、すっと背を伸ばした姿勢に、まっすぐに背骨が正中する。そして、そのたどり着く先、張りのあるV字を微かに見せて水着のパンツに消えて行く。その下に柔らかな丸みを帯びた小さな可愛らしいお尻がローレグデザインのパンツからちょっと覗いている。そして、魅惑の隙間が綺麗な腿の間に見え隠れする。脚には、紺色と水色のストライプのニーソックスだ。


「み、美沙ちゃん…」


「な、なんです!?」


びくっと、美沙ちゃんが振り向く。しまった。ちょっと声に興奮と危険な香りが混じってしまったのは否定できない。おびえさせてしまったらアウトだ。水着姿の美沙ちゃんを自宅の居間で怯えさせたら、完全に有罪。死刑だ。


「写真撮っていい?」


「はあっ!?」


「…あ、ご、ごめん。ちょっと大脳辺縁系が勝手に、今、前頭葉で抑えたから…」


われながら意味の分からない言い訳である。


「…お兄さん…」


「はい。ごめんなさい」


足をそろえて正座した。土下座の準備も出来ている。


「…誰にも絶対に見せちゃダメですよ」


「いいのっ!?」


ふんがぁーっ!


「…絶対、絶対、誰にも、間違いででも見せちゃだめですからねっ!」


「確約いたします!」


携帯電話を構える。


 美沙ちゃんが、台所でちょっとポーズを取ってくれる。


 ぱしゃっ。


 保存先マイクロSDカード。


 美沙ちゃんが、横ピース。


 ぱしゃっ。 ぱしゃっ。


 美沙ちゃんが、ダブルピース。


 ぱしゃっ。 ぱしゃっ。 ぱしゃっ。 ぱしゃっ。


 やったぁああああ…。


 ゴッホのひまわりなど、これに比べればカスだ。宇宙でもっとも美しい画像が俺の携帯電話の中に!




 水着姿の美沙ちゃんと、美沙ちゃん手作りのピザトーストを食べる。とても美味しいはずだと思うのだが、まったく味を覚えていない。視覚情報のすばらしさに、味覚が上書きされている。




 午後。




 ご褒美だらけの俺の脳みそは、本能をつかさどる大脳辺縁系を押さえ込むことに処理能力を食われながらも調子よく駆動し、さっさと三つ目の科目、英語をクリアした。もちろん過剰に放出されているドーパミンの力もある。


 美沙ちゃんの右足から、ニーソックスが姿を消す。ニーソはあるのも一興だが、ないのもいい。美沙ちゃんの太もももふくらはぎもすごい綺麗。お人形さんみたいだ。雪のように真っ白である。足の裏に角質なんてない。もちろん、親指から小指まできれいにピンク色の爪だ。立て続けに世界史もあっという間にクリアする。世界史は暗記科目なので、教科書を見ながらなら美沙ちゃんもそれなりに埋めていける。美沙ちゃんの左足からも、ニーソックスが消える。


「すごいです。さすが、お兄さんですっ。あとは国語だけですね」


 そんなことを肩が触れ合いそうな距離で、花のような笑顔を咲かせながら、ビキニの水着姿になった美沙ちゃんが言うのだからたまらない。


 興奮などという時間は、とっくに過ぎ去り、すっかりゴートゥー・ヘヴンである。いや、現在完了形であるべきだ。ハヴ・ビーン・イン・ヘヴンである。ゴーン・トゥではないところに注意だ。(受験脳)


 そして、国語の読書感想文。


「お兄さん、書いてください」


「美沙ちゃん、最近、なに読んだ」


「色々読んでますよ。あっ。寝る前は、よくお兄さんから貰った本を読んでいます…あの…覚えてます?」


言われて、思い出した。去年、美沙ちゃんと本を交換した。その後、ちょっと気まずくなってしまって、うやむやになってしまっていたけれど…。


「あ…あの惑星の?」


「はい。探査機の撮った火星や金星の写真集です。すごく素敵です…。お兄さんが、私にくれたものですし…とても、お兄さんらしいです」


そう言って、美沙ちゃんがはにかむように下を向く。俺も、それにつられて視線を落とす。Dカップの豊かな丘、谷間、おへそに足の間の隙間だ。絶景はすぐ近くにある。一億五千万キロを旅して、マリネリス峡谷を見たり、十五億キロを旅してカッシーニの隙間を見ることはないのかもしれない。幸せの青い鳥はいつだって近くにいるのだ。


 つまり、ビキニの美沙ちゃんは宇宙レベルの可愛さ。俺の太陽フレアも爆発寸前だよ!


「…でも、読書感想文にはできませんね」


そう言って、美沙ちゃんが笑う。かわいい。こんな可愛い子が、俺に笑いかけているだけでも奇跡なのに、俺のうちに遊びに来ていて、しかも水着姿だぞ。


 なにこれ!?


 ひょっとして、俺、明日死ぬのかな?


「だから、お兄さんが書いてください」


「いや、これは美沙ちゃんが書いたほうが…」


「書いてくださいよぉー」


「了解です」


可愛すぎるのも軽く催眠術である。


 俺は、シャーペンを握り、最近寝る前に読んだ「楽園の泉」を思い出しながら、規定枚数を埋める。こればかりは、ふたりでやるわけにはいかない。四百字詰め原稿用紙に向かう俺をニコニコしながら、美沙ちゃんがテーブルに頬杖をついてみている。寄せてあげて状態であり、こっちもまた楽園の泉である。俺の軌道エレベーターが完成しそうで困る。




 国語の課題、読書感想文を完成させたところでふと気がつく。


 俺と、美沙ちゃんが同時に気がつく。




 ここで、冒頭に戻るのだ。




「で…、つ、次はどうしたらいいですか…」


俺と美沙ちゃんしかいない家で、美沙ちゃんが真っ赤に頬を染めている。たいへんな事態になっている。脳みそがオーバーヒートして、思考能力が失われている。


 まて。


 こういうときこそ冷静に考えろ。現在、美沙ちゃんはビキニ姿だ。


 ここまで、一科目分の宿題をクリアするたびに、一枚ずつ『お礼』で脱いで水着姿のご披露とあいなったわけだ。


 ビキニというのは、上下二枚で構成されている。


 つまり問題は、上か下かということだ。


 ちがう。


 冷静になってない。そうじゃない。二宮直人。お前、今、犯罪者になるところだったぞ。


「こ、これのお礼は要らないんじゃなかろうかと思います」


「そ、そうですか…。で、でも…わ、わたし、お、お兄さんな…や、やっぱりナシ…です…ね…えっと…」


美沙ちゃんが頬どころか、全身をほんのりと桜色に染める。もじもじする。もじもじされると、余計に俺が大変なことになる。


 西日が窓から射し込む。


 照れて、赤く染まった美沙ちゃんの白い肌を、夕日も赤色にしていく。


 夕方?


「にーくん、ただいまっすー!」


ドアの開く音がして、妹の元気ないい挨拶が聞こえた。


「ひぐっ!」


「きゃっ!」


俺は、テーブルを飛び越え二歩で廊下にダッシュする。廊下を歩いてくる妹に突撃して、玄関まで押し返す。


「ぎゃひぃいいっ」


「きゃっ」


「うわっ」


玄関に荷物を下ろしていた両親も、なにごとかと悲鳴を上げる。


「すまんっ!転んだっ!」


我ながら、苦しい言い訳である。しかし、なんとしても美沙ちゃんが服を着用する時間を稼がねばならんのだ。0.05秒で蒸着できる宇宙刑事がうらやましい。


「なにしてんの?直人?頭、大丈夫?」


「大丈夫だ!問題ない!」


「そんなところに、いい顔で仁王立ちされてたら入れんだろう」


「一番いい土産を頼む!」


時間を稼ぐのだ。


「田舎のお饅頭買ってきたから、邪魔しないでお茶でも淹れなさいよ」


「おー。お茶かー。そーだなー。ちょーど、美沙ちゃんが来てたんだー」


ゆっくりと答えて、牛歩で廊下をふさぎながら進む。


 美沙ちゃん、着替え終わっててくれよ。


「あっ。お、おじゃま、してますー」


ポロシャツにプリーツスカート姿の美沙ちゃんが一オクターブほど上がった声で、挨拶をした。ソックスはカーペットの上だ。


 ギリギリセーフ。




(つづく)

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