第4話
「あのとき、もう、結婚することが決まってたの」
「えっ」
私は先輩の伏せた瞳を見つめた。
「だから……、最後にあなたと、はると恋人役を演じたかったの。演劇部の三年は、みんな私の気持ちを知ってたから………」
先輩と視線がぶつかった。
「はるちゃんを思い出す物は全て捨ててきたの。だから、こんな部屋になっちゃった」
そう言って先輩は笑った。
「ねえ、先輩。あのとき、本当は私も言いたかったアドリブがあるんだ。でも一年だったし、緊張して言えなかったの」
私はそう言って。
ふわっと、先輩を両手で包み込むように抱きしめて。
「日高、愛してる」
何度も。
「愛してる」
そう言った。
日高は、泣いていた。
翌朝。いつもと変わらない、いつもの声で。
先輩は、私に手を振る。
でも、一つだけ、変わったことがある。
「はるー、行ってらっしゃい」
「日高、行ってくるね」
私も笑顔で手を振った。
「がんばってね」
「うん」
頷いて。
私のカバンには、あの銀色のキーホルダーが朝日を浴びてキラキラ光っていた。
そのキーホルダーの裏には。
二つのHのイニシャルが。
小さく小さく彫られていた。
完
セーラー服とエプロン a.kinoshita @kinoshita2020
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます