第64話 今すぐ会わせて
バリア装置と発電機の使い方を説明した後、ドグマは機械を持って城に戻った。
「マリ様の事は頼んだぞ!」
そう言い残したドグマの言葉は重みがあった。
やや引き締まった思いでカズマはマリにスイートウォーター城との通信を依頼しに寝室へ向かった。
しかしマリの寝室へ向かうとマリは不在だった。
『トライの所か?』
マリの部屋に向かわせたメイもいない。
カズマはやや面白くない思いでトライの寝室へ向かう。
扉の前に向かうとキャッキャ、キャッキャとはやぐマリとメイの声が聞こえる。
カズマが扉を開けると目の前に枕が飛んできて顔面に当たった。
枕から飛び出た羽毛を口から吐き出しカズマは部屋の中を見た。
部屋の中は枕や布団から出た羽毛が舞い、マリ、メイ、トライが枕を投げ合っていた。
三人共子供のように笑いながら遊んでいる。
入ってきたカズマに気付く様子もなかった。
カズマが自分の顔面に当たった枕を持ち上げメイにぶつけた。
枕はメイの頭にぶつかり、ボフッと弾ける。
メイが振り向きカズマに気付いた。
メイ:「あ、パーパ!パーパも遊ぼ!」
カズマ:「終了だバカ娘。部屋に戻って勉強しなさい。」
メイ:「え~まだトライと遊ぶ。」
トライ:「僕もまだ遊びたい。」
すっかり打ち解けた様子のメイとトライ。
二人ともお願いモードでカズマを見つめる。
カズマはハーとため息を吐きながら二人にほうきとちりとりを渡す。
カズマ:「よし、じゃあこれから二人に『お掃除ごっこ』をしてもらう。楽しんでくれ。」
メイ:「ちぇ~、じゃあ掃除終わったら遊んでいい?」
カズマ:「いや、トライと『勉強ごっこ』だ。」
トライ:「それ楽しい?」
カズマ:「ああ、楽しいぞ~。な?メイ。」
メイはほうきとちりとりで羽毛を集めながらカズマにアカンベーをする。
カズマは掃除をはじめたメイとトライを置いてマリを部屋の外へ出るようにうながす。
部屋を出るとカズマは声をひそめた。
カズマ:「悪い知らせと良い知らせがある。」
マリ:「まず悪い知らせを・・・」
カズマ:「そうだな・・・シュウが戻ったが重傷だ。」
マリ:「シュウが重傷?」
カズマ:「ああ、マナが今治療中だ。」
マリ:「今シュウはどこだ?私も行く!」
エレベーターに向かうマリの腕を掴みカズマは引き止める。
カズマ:「待て。アンタが今シュウにしてやれることはない。」
マリ:「離せ!じっとしているよりマシだ!」
カズマ:「まず聞け!アンタにやってもらいたい事がある!それよりもシュウの側にいたいならばそうすればいい。選択は任せる。」
マリ:「なんだ?なにをしろというのだ!?」
マリはカズマの手を振りほどいてカズマを睨みつける。
カズマは静かにマリを見つめて話し出した。
カズマ:「シュウがシューティングスター城の見取り図を手に入れた。奴が命を懸けて手に入れた情報だ。」
マリが驚いて目を見開いた。
カズマ:「コイツがあれば天守まで潜入してコンピュータールームを乗っ取る事ができる。それに伴って作戦を少し変更した。」
マリ:「作戦の変更?」
カズマ:「そうだ。まず組み立て砦の指揮をオッサンにしてもらい、サンライト城の一般兵と共に砦の防衛にあたってもらう。」
マリ:「サンライト城はどうする?手薄になる。」
カズマ:「サンライト城の防衛はスイートウォーター城からの援軍にお願いしてもらいたい。これがアンタに頼みたい事だ。」
マリ:「ドグマとシュウなしでシューティングスター城に潜入するのか?」
カズマ:「ああ、俺とアンタ、メイ、マナの4人だ。」
マリが少し考え込む。
カズマ:「不安ならば潜入にはアンタは外れてもらう。ただ援軍の依頼だけは今すぐしてほしい。行軍時間は2,3日かかるはずだ。」
マリは何も答えずワイヤレスマイクでスイートウォーター城への回線を開いた。
マリ:「もしもし?ヒデ国王ですか?マリです。お久しぶりです。」
ヒデ:「おお!マリ王女お久しぶりです。何かありましたか?」
マリ:「実は先日お願いした援軍の件でお話したい事がございます。」
ヒデ:「おお!ついに決戦の時ですな!確か砦に立て籠るのでしたな?」
マリ:「いえ。砦にはこちらの一般兵とドグマ隊長が向かいます。そちらの皆さんにはサンライト城の防衛をお願いしたいのです。」
ヒデ:「なんと!我々はその方が負担が少ないのですがよろしいのですか?」
マリ:「ええ、元々はこちらとBシェルターの戦闘です。援軍をいただけるだけでありがたいです。」
ヒデ:「わかりました。これから軍勢を整えサンライト城に向かいます。」
マリ:「到着はどのくらいになりますか?」
ヒデ:「勇者様の利用していた気球を使用しますので二日あれば500人の援軍を派遣できます。」
マリ:「十分です。」
ヒデ:「わかりました。では援軍出発時にまたご連絡させていただきます。」
マリ:「ありがとうございます。」
ヒデ:「いえいえ、がんばりましょう。勇者様によろしくお伝えください。」
ヒデはそう言うと通信を切った。
マリはワイヤレスマイクを外しカズマを見つめる。
マリ:「援軍は明後日には到着するそうだ。これで満足か?」
カズマ:「いや、援軍の皆さんの宿と食料を確保してくれ。」
マリ:「わかった・・・その後シュウの所へ行くから居場所を教えろ。」
カズマ:「ダメだ・・・その後はここで作戦会議をする。」
マリはカズマの胸ぐらを掴み睨みつけた。
マリ:「作戦会議の後シュウの所へ行く。今どこにいる?」
カズマ:「作戦会議の後は休め。シュウの事はマナに任せろ。」
マリ:「頼む・・・シュウに会わせてくれ・・・」
マリはカズマの胸に顔を埋める。
カズマはあきらめたようにため息をついた。
カズマ:「わかったよ・・・今から一緒に行こう。」
カズマはそう言うとエレベーターへ向かった。
追うようにマリはカズマについていく。
寝室からメイとトライの笑い声が聞こえた。
『今はアイツらが癒しになってくれればいいか・・・』
メイとトライの無邪気さがマリの救いになる事を祈りながらカズマはマリを寺院へ連れて行った。
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