第117話

 砂川 健吾


 観覧車を降りてすぐ。

 姉さんを庇ってからというもの俺たち姉弟の間になんともしがたい雰囲気が漂っていた。

 ……きっ、気まずい!

 大事な家族だってことは互いに分かっていたんだが、なんつうか、いざそれを感じ取ってしまうと、気恥ずかしいつうか……とっ、とにかく姉さんと目を合わせずらかった。

「わっ、悪くはなかったな?」

「そっ、そうね。悪くは、なかったわ」

 姉さんも姉さんで弟に抱き寄せられたせいで、歯切れが悪くなっていた。

「「…………」」

 なんだこれ!

 姉さんもしきりに髪をいじって素っ気なさそうにしてやがるしよ!

 まるで家族で食卓を囲っているときに濡れ場のシーンが放送されたときに似た感じと言えばわかりやすいか?

 妙によそよそしくなっちまう。

 とっ、とにかく早いとこ小森と高嶺と合流してダブルデートに戻らねえと。

 そう思ったときだった。

「どういうことでしょうか? 納得のいく説明をしてもらえますか健吾さん」

 聞き覚えのある声。けれど最近はあまり聞けなくなったそれだった。

 俺は急いで声をかけられた方に注意を向ける。

 そこで視認したのは錯覚を疑う衝撃的な光景。

 なんと観覧車に乗っているはずの小森と決意のこもった表情の天使がこっちを凝視していたんだ。

 ……はっ、はああああああああああああああああああああああっ⁉︎ 

 えっ、ちょっ、はああああああああああああああああっ⁉︎

 いやいやいや! なんでこんなところに天使がいるんだよ⁉︎ 

 しかもなぜに小森と一緒⁉︎ 

 俺たちより後に乗車したはずだろ! なんで先に降りてんだよ! もうわけが分からねえっての!

 しかも小森は小森で妙に緊張した面持ちだしよ。

 いやもう本当に何が起きて――急展開にもほどがあるだろうが⁉︎ マジで理解が追いつかねえよ‼︎

「じっ、実は健吾くんと夏川さんに話したいことがあって……!」

 満を辞して口火を切る小森。

 おいおいおい、やめてくれってマジで! 俺はまだこの状況に至った経緯を把握しきれていないんだぞ⁉︎

 これ以上事態を混沌化させるのは勘弁してくれ!

 そんな俺の願いは天に届くことはなく。

 ここから怒涛の展開が待っているなんざこのときの俺は知るよしもなかったんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る