第94話

 恋愛運がよく当たると噂の占いコーナーに足を踏み入れる小森一行。

 机とタロットカードを隔てた占い師の「何を覗けばいいかしら」に対して、


「「「恋愛運!!!」」」

 食い気味で即答したのは、砂川健吾、夏川雫、高嶺繭香の三人。

 前のめりの彼らたちを視認した小森は、


(めちゃくちゃ積極的なんですけど⁉︎ えっ、なにみんな、もしかして今日のダブルデートのお目当ては占いだったの⁉︎ ちょっと引いちゃうぐらい前傾姿勢だよ!)


 一方、即答のお三方は、


(占いってのは人の方針や方向を導くもの。非科学的なものは一切信じてこなかったが、今回はアテにさせてもらうぜ。俺が天使と上手くいくためにはどうすればいいのかをな! それと気になるのが姉さんと高嶺、小森の相性だ。もう俺は光の見えない暗闇をずっと走っている気分なんだ。一筋の光明ぐらい差してもらわねえと!)


 いよいよ占いを心の拠り所にし始めた砂川。


(ふふ。遂に来たわねこのときが。高嶺さんの前で私と翔太くんの相性を堂々と突きつけるチャンス。きっと私と翔太くんは前世から結ばれているに違いないわ……ふふっ、ぐふふ)


 気持ち悪い笑みを浮かべる夏川。


(占いは信じちゃいないが、嫌いじゃない。ここで小森との相性が抜群だってんなら夏川の牽制にもなるだろう。何よりその……こっ、告白のタイミングが今日でいいのかも聞きてえしな。もしも悪い流れなら後日に改めることも検討しねえといけねえし……)


 信じないと言っておきながら、告白に適した日を気にする高嶺。


 異様な雰囲気を感じ取ったのは恋愛運がよく的中すると噂される女性占い師。

 霊感が強い彼女は混沌とした思惑を薄ら感じ取っていた。


(……何この子たち。悪いことは言わないからすぐにおはらいに行った方がいいんじゃないの? 背後にドス黒いものが蠢いているわよ?)


 何か良くないものを察知した占い師。額につうと汗が流れる。

 彼女は唯一、即答していなかった少年――小森翔太にも質問する。


「君は何が知りたいの?」

「ええっと……僕は――」

 戸惑いながらも何運を占ってもらおうか、考える小森。


(うーん、何がいいかな? 最近は泉さんに超特大パフェをよく奢らされるから金運……恋愛運もさほど興味があるってわけじゃないし。あっ、そうだ!)


「健康運でお願いします!」

「「「あア″ん⁉︎」」」

 小森の返答に凄みを効かせた声音と視線。


 それを一身に浴びる小森は短く悲鳴を挙げる。

「ひぃっ!」


「阿呆か! 恋愛運が良く当たる占い師のとこに来てんだぞ⁉︎ なんでそこで健康運なんてズレた答えが出てくんだよ⁉︎」

 小森翔太の恋愛鑑定を是が非でも聞きたい砂川。激昂。


「そうだよ何考えているの翔ちゃん! 私との相性を知りたくないの⁉︎」

 割と本気でブチ切れていた高嶺繭香。空気を読まず、どこまでも自分に正直な小森翔太の言動に机をドン。


「そうよ! 貴方が参加しないと前世からの付き合いか分からないじゃない!」


 と意味不明の夏川。

 さすがのこれには小森も、前世……? と首を傾げたものの、胃に穴が開きそうなプレッシャーに耐えられず、


「えっと、あの……僕も恋愛運でお願いします、はい」

 虚な瞳で答える。

 

 その光景を目の前で見た占い師はすぐに彼の手を取り、手相の観察を始める。

 彼女が若い女性ということもあり、夏川と高嶺の目がつり上がる。

 しかし、彼女たち二人の目は次の一言でさらにつり上がる。


「……君、千年に一人と言われる女難の相が出てるよ?」

「「はあっ⁉︎」」


 納得がいかないとばかりに立ち上がる夏川と高嶺。

 小森は切に思う。


(……今日の夏川さんと繭姉、ちょっとテンションがおかしくない⁉︎)

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