第93話
集合早々、意味の分からない修羅場を経て小森一行は占いコーナーに場所を移していた。
余談だが夏川と高嶺、どちらの私服が好みかと問われた場面は以下のようなものだった。
「女の子の服装に順位なんて付けられないよ」
右手を左肩に乗せながら困り果てように呟く小森。
まさしく優柔不断。今カノを隣にしておきながらこのチョイスである。
しかし、この言葉を選ぶまでに彼の脳内では凄まじい情報量が飛び交っていた。対外的な関係。本当の関係。夏川と砂川たちの特殊プレイ。
己の発言で傷つく人を出したくないという八方美人。
ありとあらゆる情報、感情を整理して弾き出した答えが先ほどのあれである。
偽りざる本心であった。
そんな小森の弱々しい態度にキュン死した女が二人、目玉がこぼれ落ちるほど衝撃を受けた男が一人、あとで思う存分事情聴取するつもりの女が一人。
まずキュン死の二人。
(かっ、かかか……可愛い! なに今の困り顔。尊過ぎて鼻血が溢れて……それに今カノで本命の高嶺さんだと即答できなかったあたり、それなりに翔太くんに響いたということよね⁉︎ きゃー、やった、やった! 私大勝利ぃぃぃぃーっ! 苦手な化粧やオシャレを頑張って良かったぁー! 本音を言えば私だと即答して欲しかったけれど、焦っちゃダメよ私。作戦は順調。急がば回れ。ゆっくり、ユーっくり、翔太くんの中に私という存在を染み込ませていけば、必ず振り向いてくれるはず。この恋が上手く行くかどうか不安よね? 夏川動きます)
(くっ、くっ……クソッたれが! 誰がどう見てもダメンズなのに、胸がポワポワしてやがる! 阿呆か私は! なにキュンとしてやがんだよ! 選べないなんてどう考えたって優柔不断な男だろうが! けど私はいざという時に立ち向かっていく勇姿も目撃しちまってる分、このギャップに見事にハマっちまってやがる! あーもうっ、マジでムカつく! こうなりゃ何が何でも小森を私に惚れさせて、完膚なきまでに夏川を退けてやる!)
次に目玉がこぼれ落ちたホラー男。
(うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーっ!!! 出た、出たぞ必殺技が! 間違いねえ。今のはヒモ男が使いこなす、ぬるま湯に浸かったように女を堕としていくスキル【優柔不断】これを食らった女は死ぬ。もちろん思考が! 私がそばにいないと、と母性をくすぐる高等テク! 仮にも姉さんの恋人である俺の前で自然にやってのけやがったぞ!!! 頑張れ健吾、頑張れ!! 俺は今までよくやってきた!! 俺はできるやつだ!! そして今日も!! これからも!! 折れていても!! 俺が挫けることは絶対にない!! 俺と天使の絆は誰にも引き裂けない!)
彼もまたバカになり始めていた。
最後に小森翔太の親友――泉天使。
(夏川さんが翔太さんに抱き付いているのに健吾さんが喜んでいる……。まっ、まさかまさか本当に寝取らせに興味が……⁉︎ うっ、嘘でしょ? でも健吾さんすごく嬉しそうだし……ということはもし私が小森さんになびいていること匂わせたら一体――)
泉天使の中に相当危険な思考がよぎった瞬間である。
という各々の内心から戻って現実。
占いコーナーに到着した砂川が切り札を切ったように言う。
「ここの占い師、恋愛運が超絶良く当たるらしいぜ?」
「「えっ⁉︎」」
砂川の発言に魚を前にした猫よろしく飛びつく女子一同。
実はカツラにサングラスの泉もその噂は認知しており、興味深々の様子。
むろん尾行している手前、乱入するわけには絶対に行かないが。
小森は鼻をすんすんと鳴らす。どうやら何かを感じ取った様子。
(……幸せが壊れる前にはいつも血の匂いがする)
どこかうんざりとした表情を浮かべながら強引に中に引き摺り込まれる小森。
それはさながら散歩を嫌がる犬のリードを飼い主に無理やり引っ張られている光景と瓜二つであった。
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