第91話
小森翔太に私服姿を褒められ、天にも昇る心地の夏川に対し、地獄に叩き落とされたような怒りを覚える高嶺繭香。
(ふざけんじゃねえぞ……よくも小森の恋人である私の目の前でそんな大福がとろけたような――至福の笑みを浮かべられるな! ああっ、もうクソッ! ちっと前の私なら腹を抱えて笑える光景のはずなのに、マジ笑ねえ! 腹が立って仕方ねえ! いい気になるんじゃねえぞ夏川。私だってな――)
「ねえ翔ちゃん」
「うん? どうしたの繭姉?」
「私はどうかな?」
恥ずかしそうに質問する高嶺。
しかし小森は戸惑わずには居られない様子。
というのも、
(ええっ⁉︎ また⁉︎ また私服の感想を言わされるの⁉︎)
ダブルデートの待ち合わせにおいて、小森&高嶺ペア、砂川&夏川ペアは事前にに合流した上でここに集合していた。
すなわち小森は高嶺と集合した際に、私服の感想をしつこく求められており、既に答えていた。
にも拘らず、まさかの再確認である。
彼が戸惑うのも無理はなかった。
(まっ、まさか僕が夏川さんを褒めたことに嫉妬して――いや、それはないな。僕たちはストーカーを牽制するための偽装カップルだし、繭姉が僕に惚れているなんて億に一つもないはず。勘違いはダメだぞ僕。女の子に話しかけられたぐらいで「あれ、もしかして僕のこと好きなんじゃ……」と思った翌日、その子に彼氏がいた過去を忘れたの? 非モテのくせに思い上がるんじゃないよ! ということはやっぱり恋愛感情抜きにして夏川さんにライバル意識があるってことだよね⁉︎ この前のお弁当のときも敵意があったように感じたし……二人は仲が悪いのかな⁉︎ あれ? だとしたら今日はどうしてダブルデートなんかを? ダメだ! 考えれば考えるだけ分からないことが溢れてくる! ここは本能が正解だと告げてくる言動に徹しよう!)
小森は深呼吸したのち、笑みを見せたのち、
「繭姉が可愛いのは昔からでしょ? 今日も似合ってるけど?」
偽りざる本音を告げる。
これがお三人方にクリティカルヒット。
まずは夏川雫。
(いやああああああああああああっー! 天国から地獄! 天国から地獄ぅぅぅぅぅぅーっ‼︎ 昔からって、私と翔太くんが出会っていない頃から二人は知り合いってことよね⁉︎ 幼馴染って本当に反則――チートよチート!)
続いて高嶺繭香。
(うっわ、やっべ。なんだこれ。幼馴染つうアドバンテージによる優越感と、夏川の前で小森本人から褒められた嬉しさが重なってめちゃくちゃ心地良い! だっ、ダメだ……どうしても顔がニヤけちまう。みっ、見られないよう視線を逸らさねえと……!)
いつの間にか小森翔太に骨抜きにされてしまった高嶺繭香。
照れる姿はまさしく乙女そのもの。誰がどう見ても幸せそうである。
そしてその光景を目の当たりにしている砂川はというと、
(おいおいおいおいっ! まさか勘違いじゃなかっただと⁉︎ てっきり小森がゾッコンだと思っていたが、高嶺の方が惚れ込んでんのか⁉︎ マジで恐るべき男じゃねえか! うおう、なんか急に怖くなってきたわ! まさかやっぱり天使もこいつに骨抜きにされているんじゃ……⁉︎)
高嶺繭香と夏川雫の不仲説に目を背けたい一心だったのだろうか。
小森翔太はふと見上げた空の雲を見て、
(あっ、あれ……ソフトクリームにそっくりじゃん!)
現実逃避に走っていた。
むろん、彼に逃げ場はなく、夏川の次の一言でさらなる修羅場が待っていた。
「ねえ、小森くん。今日のコーディネート。私と高嶺さん、どちらが好みかしら?」
あまりに恐ろし過ぎる質問に小森もパニックになったのだろうか。
(生殺与奪の権を僕に握らせるんじゃない!!!!)
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