第89話
【ダブルデート】
二組のカップルがデートすること。四人でワイワイ盛り上がること。
小森翔太を取り巻く環境はまさにそれだった。
しかし開幕早々、いきなり不穏な空気が漂っていた。
四人が集合しているのは、巨大アミューズメントパーク。
年頃の男女が楽しい時間を過ごすには申し分のない場所。
にも拘らず、牽制モードに突入していた。
なにせ四人の思惑がてんで違うからである。
(つっ、ついにこのときが来ちまったか。落ち着け。緊張なんて俺らしくねえだろ。時間はたっぷりあるんだ。大丈夫。脳みそも振り絞った、細工もバッチリ。暗躍に徹すれば小森と二人きりになれるだけでなく、高嶺とも二人きりになれるんだ。
このダブルデートでいくつかの目的がある砂川はやる気十分。しかし、失敗は許されない分、緊張もしている様子。
目が見開き、呼吸も荒い。
(まずは挑戦状を受けて立ってくれたことに敬意を示すわ。略奪すると宣言した女とダブルデートなんてよっぽど自信があるのかしら。けれど今日の私は一味違うわよ。たとえ刺し違えてでも翔太くんに魅力をアピールするつもりだから。覚悟しておくことね)
メラメラと闘志を燃やし、やる気十分の夏川。
すっぴんでも十分、男を惑わさずにはいられない容姿をナチュラルメイクで磨きあげている。
ちなみに今日の私服はボディラインが強調されるニット。
ダブルデートに来ていく服を選ぶため徹夜のファッションショーに付き合わされていた砂川の目にはくまが薄らできていた。
(おいおいおい! ガチで小森を奪い取る気十分じゃねえか! 悔しいがただでさえ整っている容姿をさらに磨き上げてきただぁ⁉︎ 上等じゃねえか。ダブルデートで何を企んでいるかは知らねえが受けて立ってやるよ!)
こちらも闘志十分の高嶺。
男受けする服装、化粧、言動において彼女は百戦錬磨の実力者。
これまでの経験値をフル動員して仕上げている。
故にこの場に不釣り合いな人間が一人。
小森翔太である。
泉のプロデュースにより一皮むけたことは事実。
しかし、砂川健吾、夏川雫、完全体の高嶺繭香が一同に介しているのである。
彼らが放つオーラや磨き上げた容姿と比較して一歩、いや百歩以上遠い位置にいると言わざるを得ない。
加えて小森には誰よりも胃を痛ませる秘密を抱えていた。
(……グラサンにマスク⁉︎ あれっ、髪が黒色……まさかカツラまで⁉︎ たしかに変装はできてますけどそれじゃただの変質者ですよ――泉さん!)
このダブルデートに泉天使も潜入していることを知っているのは小森一人だけであった。
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